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農協改革、長い本番ははこれから始まる

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 1955年に総理大臣を狙っていた大物政治家、河野一郎農林大臣さえ果たせなかった農協改革が、60年ぶりに政治の議題に上がった。契機となった5月22日の政府規制改革会議の農協改革案は、大胆かつ画期的な内容だった。

 第一に、JA農協の政治活動の中心であり、農業の構造改革を常に阻害してきた全中(全国農業協同組合中央会)などの中央会に関する規定を、農協法から削除する。全中は系統農協などから80億円の賦課金を徴収してきた。農協法の後ろ盾がなくなれば、全中は強制的に賦課金を徴収して政治活動を行うことはできなくなる。

 第二に、全農(全国農業協同組合連合会)の株式会社化である。これは、協同組合ではなくすということである。日本の農業には、農協によって作られた高コスト体質がある。肥料・農薬、飼料、農業機械という農業資材価格は米国の2倍である。

 全農を中心とした農協は、肥料で8割、農薬、農業機械で6割、飼料やコメで5割のシェアをもつ巨大な企業体である。このように大きな企業体であるのに、協同組合という理由で、全農には独占禁止法が適用されてこなかった。その上、一般の法人が25.5%なのに 19 %という安い法人税、固定資産税の免除など、様々な特権が認められてきた。

 本来、農協は農家が安く資材を購入するために作った組織だったのに、独占禁止法が適用されないことで、農家に高い資材価格を農家に押し付け、最終的には高い食料品価格を消費者に押し付けてきた。高く売れば、農家は損をするが農協は儲かる。本来農家のために作られた組織が、組織自身の利益を優先しているのだ。様々な特権がなくなることによって、全農が、一般の企業と同じ条件で競争するようになれば、資材価格や食料品価格が低下することが期待できる。

 しかし、自分たちの組織がなくなるかもしれないという恐怖に駆られた全中や都道府県中央会というJA連合会組織は、各地域出身の自民党政治家を突き上げ、6月10日の自民党のとりまとめ文書によって、この改革案を完全に骨抜きにした。

 まず、全中は新たな制度に移行するが、「農協系統組織での検討を踏まえて結論を得る」のだから、農協に都合の悪い組織変更にはなりえない。また、全中に関する規定も農協法に置くのだという。全農の株式会社化も、単なる選択肢の一つとなったうえ、「独占禁止法が適用される場合の問題点を精査して問題がなければ」という条件も付けられた。しかも、この文章は、全農が判断して決定するように読める。そうであれば、やらないと言っているのと同じである。JA全中会長が勝利宣言するのは、当然である。

 自民党の会議では、規制改革会議の改革案に対して、現場を知らない人たちによる改革案だという意見が相次いだそうだ。しかし、政治家の人たちが聴いている現場の声は、都道府県のJA中央会の幹部の主張であって、現場の農家の声ではない。私は、農協を批判しない主業農家にあったことはほとんどない。戦前の地主制の下では、

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