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中央銀行のインフレ目標を監視する―スウェーデンの金融政策というケース・スタディ―

吉松崇 経済金融アナリスト

 ブルームバーグ・ニュースが6月5日、「スウェーデンの大蔵大臣、アンダーズ・ボルグ氏が、スウェーデン中央銀行(通称“リクスバンク”)のインフレ目標に関するパフォーマンスについて、中央銀行から独立した監視委員会の設立を検討しているようだ」と報道している。そして、そもそもこういう話が持ち上がったきっかけは、ポール・クルーグマンがニューヨーク・タイムズに4月に書いたリクスバンクを厳しく批判した論説である、という。
(“Krugman’s Condemnation of Sweden Triggers Riksbank Review Talk” by Johan Carlstrom, Bloomberg News, June 5, 2014)

スウェーデンが日本になる!

 クルーグマンは、このブルームバーグの指摘する論説で、「スウェーデン中央銀行の金融政策スタンスは、まるで以前の日銀そっくりであり、スウェーデンは今やデフレの淵に立っている」と、その金融政策を激しく批判している。
(“Sweden Turns Japanese” by Paul Krugman, New York Times, April 20, 2014)

 クルーグマンのリクスバンク批判は、以下のように整理できる。

 (1)2010年までのスウェーデン経済は、2008年金融危機からの回復過程で、先進国の中でも最も優れたパフォーマンスを実現していた。

 (2)ところが、2010年、リクスバンクは未だ失業率が高くインフレは目標値(2%)を下回っているにもかかわらず、金融引き締めに乗り出した。

 (3)金融引き締めと同時に、失業率は低下しなくなった。そして今や、スウェーデンはデフレに陥る瀬戸際にいる。

 (4)2010年に金融引き締めに入ったときには、リクスバンクはその理由を「将来のインフレに備えて」と説明していた。ところが、その後インフレ率が低下傾向をたどると、「住宅バブルを未然に防止するのだ」と説明を変えた。同じ政策をまったく異なるロジックで正当化している。

 スウェーデンのインフレ率、失業率と実質GDP成長率の推移をユーロ通貨圏およびイギリスと比較したのが、下記の表である。

2014年の数字は、CPIは1~4月の平均値、失業率は最新時点(3月または4月)。ユーロ通貨圏は17ヵ国ベース。(出典:ユーロスタット)拡大2014年の数字は、CPIは1~4月の平均値、失業率は最新時点(3月または4月)。ユーロ通貨圏は17ヵ国ベース。(出典:ユーロスタット)

 この表の実質GDP成長率の推移を見ると、2008年秋の金融危機によって、2009年に景気が大きく落ち込んだのは、スウェーデンも他の先進国と変わりがないが、2010年には著しい回復を遂げている。この点が、その後のユーロ危機で景気回復が叶わなかったユーロ通貨圏や当時インフレに悩まされていたイギリスと大きく異なるところだ。実際、2010年の年率6.6%という実質GDP成長率は、

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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