2014年07月10日
増税で歳入を50兆円に積み上げても、歳出は96兆円。これが今年4月に始まった2014年度予算の姿である。
安倍晋三首相がかつて官房副長官を務めた小泉内閣は、2001年12月4日の経済財政諮問会議で、「2010年代初頭にプライマリーバランスは黒字化する」と10年後を展望したが、見込み違いもはなはだしい。当時一般会計予算で9兆円を超えていた公共事業費は6兆円を切るが、「無駄な公共事業」への批判は収まったわけではない。
スーパー堤防事業はその典型だ。2012年には会計検査院が調査した結果、その整備率は25年間で1%に過ぎないことが分かった。単純計算をすれば100%に達するまで2500年を必要とする。民主党政権ではいったん中止の方針が出ていたが、東京都江戸川区では再び息を吹き返している。同区は7月3日、移転に応じない地権者の家屋の強制撤去を開始したのだ。反対する地権者らは現在の堤防の上から、「不要なスーパー堤防事業は中止せよ」などと書かれた横断幕を広げて抗議の声を上げた。
一体、何が起きているのか。
スーパー堤防はその正式名称を「高規格堤防」と言う。人口と資産が集中する首都圏と近畿圏で大河川の破堤被害を防ぐ必要があるとの河川審議会(当時)の答申を経て1987年に始まった国土交通省による治水事業である。
高さ「1」に対して幅が「30」の幅広な破堤しない堤防を作り、その緩やかな傾斜地を利用して自治体が主導して提案するまちづくり(土地区画整理事業)と一体で進める構想が誕生した(下の図)。
一見すると、住民にとって好ましいようなプランに思われるが、この自治体の構想に巻き込まれる住民は、一度転出して、数年後の堤防完成後にもう一度戻ってこなければならない。補償金が出る代わりに家屋の解体から2度の移転まで、すべて所有者自身が手配しなければならず、人生設計や年代によって賛否が分かれる事業である。
東京都江戸川区は、区の7割が江戸川と荒川に挟まれた「ゼロメートル」地帯であることを理由に、積極的にこの事業を推進し続けている。しかし、その事業地や予定地を歩くと、首をかしげざるをえない事例に遭遇する。
荒川沿いの平井7丁目では、区画整理事業と一体で4年間で約83億円を費やし、延長わずか150メートル、1.2ヘクタールのスーパー堤防が2004年に完成している。しかし、隣接する国家公務員宿舎が建て替え時期ではないことを理由に移転しなかった。
このため、1対30の傾斜にはならず、盛土した5メートルの断崖絶壁状にプッツリと工事が終わり、安全なまちづくりとはほど遠いものとなっている(下の写真)。国土交通省所管の財団法人「リバーフロント整備センター」(現、公益財団法人リバーフロント研究所)の調査によれば、完成後も住民の55%が戻らず、まちづくりどころか、結果として地域破壊事業となってしまった。
同じ荒川沿いの亀戸には東京電力(株)が所有するスーパー堤防予定地があった。しかし、それが2013年に住友不動産(株)に売却されると、2014年6月に住宅開発を始めたいとの意向で、国と江戸川区が協議を重ね、今年2月にスーパー堤防事業は中止となった。
江戸川沿いの篠崎地区では、日蓮宗の「妙勝寺」が「1279年の開山以来、一度も水害にあったこがありません」と反対した。山門前には「スーパー堤防建設反対 ゼロメートル地帯ではないこの地に無駄・不要 税金の無駄使い!!」との看板が掲げられている。しかし、予定地から外れる気配はない。
実は、江戸川区に限らず、スーパー堤防予定地は
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