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バーバリー、ゴディバ直営化、日本企業はどうブランドを育成すれば良いのか

田中洋 中央大学ビジネススクール教授

ブランド企業の直営化

バーバリーのトレンチコート。裏地などに使われる「バーバリーチェック」は日本でも広く知られている 拡大バーバリーのトレンチコート。裏地などに使われる「バーバリーチェック」は日本でも広く知られている

 最近、イギリスの老舗ファッションブランド、バーバリーが日本でのライセンス提携先である三陽商会との契約を打ち切って、バーバリーが独自で直営店を展開するというニュースが報じられた。何が起ったのか。三陽商会は長年、日本でバーバリーブランドの展開を担い日本での同ブランドの普及に貢献してきたのは確かだ。

 一方、バーバリーは近年「プレミアムブランド化」を推進してきた。この変革の中心にいたのが、2013年にアップルの上級副社長に移籍したアンジェラ・アーレンツだ。彼女はバーバリーのCEOとして2006年から2013年の間にバーバリーの売上を3倍にし、株価を4倍に押し上げるという業績を成し遂げた。

 バーバリーを復活させたのは、低迷していたブランドを再び富裕層に支持されるブランドに変えた。それまでバーバリーといえば、チェック柄を想起する人も多いが、より繊細なデザインを採用して商品ラインを刷新した。もうひとつのアーレンツ改革の柱は、直営店化である。バーバリーの業績を支えているのが直営店によって、より自社が考えるブランドを表現することだった。こうしたバーバリーブランドのプレミアム化の流れに対して三陽商会の「ブラックレーベル」「ブルーレーベル」など、高級ブランドの普及版を出す考え方と合致していないことは明らかだろう。

 また日を置かずして、ベルギー発のプレミアムチョコレートブランドである、ゴディバが2015年春から、それまで片岡物産と契約していた小売り販売をすべて自社直営で行うと発表したのだ。業界こそ違え、ここでも同じような事態が発生している。

何が問題なのか

 これらの出来事は何を物語っているのだろうか。契約を打ち切られた三陽商会にも、片岡物産にも経営上少なからぬ打撃があることが推測される。有名海外ブランドに依存して経営を行う日本企業は、これまでにもあったし、この二社のように契約を打ち切られて、ブランドの本体が直接経営に乗り出すことが何度かあった。1998年にアディダスとの契約を打ち切られたデサントもその例である。

 問題は、日本企業はこうしたブランド経営をどうすればよいのか、ということになるだろう。この問題にまともに応えるならば、日本企業も自社でプレミアムブランドを育成すべきだ、ということになる。

 私がこれまでに主張してきたことのひとつは、パワーブランドができるためには、その出発時に、何らかのイノベーションが必要だ、ということだ。これについてはここでは繰り返さない。日本企業にとっての本質的な課題はイノベーションを起こし、いったんブランドをつくった後にあるからだ。アパレル業界では、日本企業が海外に支払っているライセンス料は、多額に上る。日本人デザイナーがつくったファッションブランドは少ない数ではない。しかし、日本企業がライセンス料で稼ぐ体制にはなっていない。

成すべきアクションとは

 どうすれば良いのか。以下は、イノベーションを起こした後、企業が成すべき六つのアクションをとりあえずの処方箋を示しておきたい。

1) 初期に急速に発展すること:
 イノベーションを起こした後、初期に競合が追い付かないうちに、市場を固めることが必要である。コアとなる顧客群を形成すること、そこから派生するライトユーザーを取り込むこと。初期の成功がブームで終わらないために、ブランドのライン拡張や、ブランド拡張を行って、隣接する市場やまだ獲得できていない顧客層を早く取り込む努力をすべきである。マクドナルドやケンタッキーフライドチキンのような世界的ブランドは、

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筆者

田中洋

田中洋(たなか・ひろし) 中央大学ビジネススクール教授

中央大学ビジネススクール教授。1951年名古屋市生まれ。マーケティング論専攻。京都大学博士(経済学)。電通で21年間実務を経験して後、法政大学経営学部教授、コロンビア大学研究員などを経て現職。社会人のための夜間・土日開講のビジネススクールでマーケティング論の教鞭を執る。日本マーケティング学会副会長。著書に『ブランド戦略・ケースブック』、『マーケティング・リサーチ入門』など、これまでに14冊を数える。日本広告学会賞、日本マーケティング学会ベストペーパー賞、東京広告協会白川忍賞などを受賞。多くの企業に対して戦略アドバイスや社内研修を行う。翻訳サービスの言コーポレーション(株)顧問。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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