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JAグループはどこへ、組織再編にとどまらない足元からの改革を

青山浩子 農業ジャーナリスト

 「全中廃止という徹底した改革のほうがよかったのでは。骨抜きになったことで、農協組織の内部的な再編にとどまり、生産現場まで改革が浸透しないのでは?」

 政府が出した農業改革に対するある農家の感想だ。今年5月、政府の規制改革会議農業ワーキンググループが農業委員会の見直しや農業生産法人の要件緩和とともに、JA全中の廃止を含むJAグループの大幅見直し案を出した。その後、自民党と公明党が協議をおこない、全中の廃止は撤回され、「自律的な新たな制度への移行」に落ち着いた。冒頭の農家は、ワーキンググループの提案をむしろ支持していた。

 こうした大胆な発言を聞いたのは後にも先にもこの農家だけだ。大半の農家は今回の農協改革に対して冷めている。こちらから話を振らない限り、農家から話題にすることはない。あえて感想を聞いても「JA内部の問題。自分たちにはあまり関係がない」という反応だ。

 それはそうだろう。全中が廃止なったとしても、全中組織と直接絡みが少ない農家にとって、農業や生活に大きな変化があるわけではない。改革案では、経済事業に専念するために、共済事業を全国段階の組織が統括させ、各JAでは窓口・代理業のみをおこなうことになったが、組合員である農家からすればやはりこれまでとなんら変化はない。

 だが、前述の農家の発言、さらに大半の農家の冷めた反応をそのまま放置してならないのは他の誰でもなく、当のJAグループだ。表に出てくる話、出てこない話を含め農家の声に耳を傾け、足元ですべき改革を一日も早く実行すべきだ。そこにJAの生き残り策があるからだ。

 先日、北海道で稲作農家の取材をした。JAの営農活動について「がんばってはいるんだが、中途半端」と言った。農家はJAが組織する生産部会に入っている。生産部会は作物ごとに構成されることが多い。部会内で栽培方法や出荷に関しきびしい基準やルールがある。こうすることで集荷される農産物が均質化され、JAとして売りやすくなる。この農家の生産部会でも、土壌分析の義務化から始まり、肥料はどういったものをどのぐらいの量を使うという細かいルールまである。

 ところが、部会の事務局をつとめるJAは「使用する肥料はこういうものですよ」と紹介するだけで、その肥料を農家に売り込むことをしないそうだ。JAには肥料や農薬、農業機械などを販売する「購買事業」がある。売り込めばもれなく買ってくれるのに、

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筆者

青山浩子

青山浩子(あおやま・ひろこ) 農業ジャーナリスト

1963年愛知県生まれ。86年京都外国語大学英米語学科卒業。JTB勤務を経て、90年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合研究所に勤務。99年より農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞出版社)「農産物のダイレクト販売」(共著、ベネット)などがある。茨城大学農学部非常勤講師もつとめる。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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