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中国食品の落とし穴、食の安全確保に甘すぎる日本企業

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

上海中心部のマクドナルドでは22日、「メニューに限りがあります」と謝罪する文書がレジ近くに掲示されていた=金順姫撮影上海中心部のマクドナルドでは22日、「メニューに限りがあります」と謝罪する文書がレジ近くに掲示されていた=金順姫撮影

 またしても、中国産の食品の安全性が疑問視されるような事件が起こった。中国の食品会社「上海福喜食品」が期限切れ肉を使っていたことが大きく報じられ、波紋を広げている。

 2008年には中国製冷凍餃子に有毒物質が混入された事件が発覚、同年にはタンパク質の含有量を不正に多くみせようとして有害物質のメラミンが乳製品に不正に混入された事件が発生、2010年には下水道の汚水を精製した油が食用油として中国全土の飲食店で多数使われていたことが発覚している。

 これは中国だけの問題ではない。2000年には、雪印乳業による集団食中毒事件、2011年にはユッケ事件食中毒事件が発生するなど、我が国も例外ではない。

消費財としての食品の特殊性

 このような事件が生じる背景には、消費財としての食品の特殊性がある。

 食品は、消費者がその特徴を購入前に確定できる財(腐敗や変色をしていれば、購入前に危害要因を識別できる「探索財」)、購入後にはじめて特徴がわかる財(ある食品がどれだけ日持ちするかなど時間が経てば消費者がその特徴を把握できる「経験財」)、購入後においても特徴を把握することが困難な財(「信用財」)に分類される。

 探索財について消費者がおかしいと判断すると購入されないし、消費後に製品の不良を判定できる経験財については、だまされた消費者は次の購入機会には買わないという決定をすることができるので、企業が消費者をだまそうとするインセンティブは少なくなる。

「信用財」と「情報の非対称性」

 しかし、ある食品がビタミンなどの栄養素をどれだけ含んでいるか、どの程度の農薬が残留しているのか、安全な製造過程で生産された食品かどうか、などは、購入・消費後においても一般の消費者は判断できない。これらは事後にも消費者が安全性や品質を検証できない「信用財」である。

 今日では生鮮食品の購入の比率が低下し、加工食品や惣菜、外食の比率が増加している。特に、惣菜、外食等の比率を示す食の外部化率は1975年の28%から最近年では45%程度まで上昇している。

 生鮮食品である牛肉と豚肉の違いは見ればわかるが、加工食品である冷凍コロッケの中身は判断できない。健康飲料にビタミンがどれだけ含まれているのか、どのような食品添加物が入っているかなどは、企業が行う表示を信用するしかない。つまり、「信用財」である。

 消費者は企業が自らの要求に答えた商品を提供しているかどうかを判定する手段を持たない。食をめぐる問題は、食生活の高度化と「信用財」という食品の特殊性によって、企業は食品の性質をわかっているが消費者はわからない

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