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 農林水産省は、カロリーベースでの食料自給率が2013年度も39%に低下したままだと発表した。

 この食料自給率という概念は、農林水産省が最も成功をおさめたプロパガンダである。60%以上も食料を海外に依存していると聞くと国民は不安になるからだ。

 しかし、食料自給率とは、国内生産を、輸入品も含め消費している食料で割ったものである。したがって、大量の食べ残しを出し、飽食の限りを尽くしている現在の食生活(食料消費)を前提とすると、分母が大きいので食料自給率は下がる。今の生産でも30年前の食生活を前提とすると、食料自給率は大幅に上がる。

 今でも食料自給率を100%にする方法はある。政府が輸入を一切禁止するのである。あるいは、日本周辺で軍事的な紛争が生じてシーレーンが破壊され、海外から食料を積んだ船が日本に寄港しようとしても近づけないという事態が生じると、輸入は行われない。輸入が行われなければ、生産=消費なので、食料自給率は100%になる。

 実は終戦直後の食料自給率は100%だった。このような事態では、食料危機が起こり、餓死者が発生しているのだが、食料自給率は100%である。しかし、今の食料自給率39%よりも、このような飢餓が生じる事態が良いとは、誰も言わないだろう。

 要するに、分母の消費の違いによって上がったり下がったりする食料自給率は、何の意味もないのだ。カロリーベースではなく、金額ベースだと野菜や果樹など低カロリーの農業生産も含まれるため、食料自給率は6割以上になるという主張もあるが、分母に消費を置く以上、金額ベースの食料自給率も意味がない。

 仮に、食料自給率が有意義な概念だとして、果たして農政は食料自給率を向上させるような手立てをしてきたのだろうか?むしろ逆である。

 国内の高い農産物価格を守るために必要となる、高い農産物関税を維持するため、WTOやTPPなどの国際交渉では、

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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