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[45]日本とウクライナ、集団的自衛権の意味

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

 紛争の当事者がヒステリックに騒ぎ立てている時には、第三者は、当事者から距離を置いて事態を眺めるのが肝要である。

NATOの集団的自衛権

 北大西洋条約機構(NATO)は8月29日、ウクライナの要請で、同国の事態に関する緊急会合を催した。ちなみに、ウクライナは、NATOに加盟していない。

 軍事同盟であるNATOの基礎になっている北大西洋条約の中でも、集団的自衛権を具体化するものとして有名な同条約第5条を、原文の英文と日本語の仮訳で、少々長くなるが以下に掲示しよう。

Article 5 The Parties agree that an armed attack against one or more of them in Europe or North America shall be considered an attack against them all and consequently they agree that, if such an armed attack occurs, each of them, in exercise of the right of individual or collective self-defence recognised by Article 51 of the Charter of the United Nations, will assist the Party or Parties so attacked by taking forthwith, individually and in concert with the other Parties, such action as it deems necessary, including the use of armed force, to restore and maintain the security of the North Atlantic area.
Any such armed attack and all measures taken as a result thereof shall immediately be reported to the Security Council. Such measures shall be terminated when the Security Council has taken the measures necessary to restore and maintain international peace and security .
第5条 締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。(仮訳)

 要するに、北大西洋条約第5条が意味するのは、北大西洋条約加盟国は、自国が攻撃されていなくても、他の加盟国が攻撃された場合には、攻撃された国を個別的又は集団的自衛権を行使して援助する義務を負っているということである。

 これだけでは、至極もっとものように思われる。しかし、軍事大国が、軍事小国の独立・国家安全保障などを、条約・協定などで保証した場合には、軍事大国自身の思惑を大きく超えて、軍事大国間の直接戦争に容易に発展する危険があることは、20世紀の前半だけでも、実際に2度も見た。第1次世界大戦、第2次世界大戦である。

 イギリスは、第1次世界大戦では、ドイツが、ベルギーの中立を侵した段階で、第2次世界大戦では、ポーランドの独立がドイツ・ソ連両国に踏みにじられた段階で、欧州大戦に引き込まれてしまった。

ロシアにとっての軍事的緩衝地帯

 NATOは、東西冷戦終結前には、文句なく旧ソ連を仮想敵国として形成された。ソ連を継承したロシアから見れば、東西冷戦終結後も、冷戦終結時の米国と旧ソ連の了解を無視し、ロシアの反対にも関わらず、NATOが旧ソ連の勢力範囲であった東欧諸国だけではなく、旧ソ連自体の領域であったバルト3国を加え、さらにウクライナ、グルジアまで包摂しそうであると映るだろう。

 そうなれば、ロシアは、第2次世界大戦後に維持していた米国・欧州との軍事的緩衝地域を全て失うことになる。次の段階で、NATOを主導する米国は、ロシア本体に対して、いかなる本音の狙いを持っているのかが、ロシア指導層が大いに憂慮することになっても何ら不思議ではない。気がついてみれば、 ・・・ログインして読む
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筆者

齋藤進

齋藤進(さいとう・すすむ) 三極経済研究所代表取締役

(株)三極経済研究所・代表取締役。1950年静岡県生まれ。73年京都大学経済学部卒、73年より、国際関係研究所客員研究員(台北)、76年ミシガン大学大学院経済学博士課程修了。フォード財団特別研究員、ウォールストリートで、金融機関、機関投資家、国際機関向けの独立経済コンサルタント業、クレディ・スイス銀行(東京)経済調査部長兼チーフ・エコノミストなどを経て、1990年より現職。「平成不況」の名づけ親として、多くの経済政策論文・論説を発表。著書に『平成不況脱出』(ダイヤモンド社)、『平成金配り徳政令』(講談社)など。世界の100人のTop Political Columnistにも選ばれている。 【2016年8月WEBRONZA退任】

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