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「国民の命を守る人たち」の命を守る~予防接種の視点から~(上)

石川和男 NPO法人社会保障経済研究所代表

 死の病・エボラ出血熱が猛威を振るっている。WHO(世界保健機関)によれば、現在エボラは西アフリカ4ヶ国を次々に襲っており、罹患者は既に3000人を超えている。WHOは更に、実際には2倍から4倍の数の人に感染しており、伝染の蔓延が食い止められるまでにその感染者数は2万人を超えると見通している。

 映画「アウトブレイク」を観た人は多いのではないだろうか。今から約20年前の1995年に製作されたこの映画。防護服に身を包んだ医師や軍人が、原因不明の出血熱(映画ではエボラ出血熱ではない架空の病名)による感染パニックと闘う姿を描いたものだ。いわゆる予防接種のためのワクチンは開発されていなかったという設定だ。最後の場面で、感染した医師が完成したばかりの新型ワクチンを接種することで一命を取り留める。

 彼らは国民の命を守るのが任務だ。しかし、彼らがその任務を遂行するには、彼ら自身が感染しては元も子もない。国民の命を守るためには、国民の命を守る人たちの命が守られていなければならない。「アウトブレイク」は、そんな当たり前のことを示唆した映画でもある。

 で、日本の話。我が国を取り巻く国際情勢は、常に不安定要因を抱えている。朝鮮半島の動向を始め、尖閣諸島を巡る日中対立、竹島を巡る日韓対立。戦後70年近く、日米安保の傘の下で守られてきたとされる日本の平和と安全と繁栄が脅かされるのではないかとの危機感は、常に持っておくべきなのだ。

 2011年3月の東日本大震災により、日本の国民と国土は甚大な被害を蒙った。復興への取組みは続くが、震災前の状態に戻るにはまだまだ道のりは長い。地球規模の気候変動によるのか、台風や豪雨による災害が頻発し、多くの人々の生命と財産が脅かされている。広島市北部で大規模土砂災害を引き起こした先の「平成26年8月豪雨」は実に痛ましい。警察、消防、自衛隊は今も、先頭に立って捜索・救助活動や復旧作業を続けている。

 大規模な災害の発生時に、その現地に先ず派遣されるのは、警察、消防、自衛隊。自衛隊は本来、国の平和と独立を守り、安全保障を担う。領海を警備して密入国などを取り締まるのは海上保安庁。彼ら公務員は、国土の保全国民の生命財産の安全確保を任じられた、いわば「国民を守ることを仕事とする人たち」。彼らの任務は、多種多様な危険と隣り合わせである。だから、想定されるリスクから可能な限り身を守る策を講じた上で危険な任務に臨めるようにすることが、彼らの雇用者である国や自治体に当然求められる。

 本稿では、彼らのような「国民を守ることを仕事する人たち」を守るにはどうすべきか、冒頭の「アウトブレイク」ではないが、予防接種との関係という視点に立って考えていく。

 予防接種というと先ず想起されるのは、乳幼児を対象に接種される数多くのワクチンや、毎年秋に接種されるインフルエンザワクチンであろう。予防接種が安全保障や災害対策とどのような接点があるかなどと、そもそも思う人は多くないかもしれない。

 実は、予防接種は「国民を守ることを仕事にする人たち」にとって必須なものだ。彼らこそ予防接種を受ける優先度が高い。「新型インフルエンザワクチン接種に関するガイドライン」(平成19年3月26日 厚生労働省・新型インフルエンザ専門家会議)には、

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