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「国民の命を守る人たち」の命を守る~予防接種の視点から~(下)

石川和男 NPO法人社会保障経済研究所代表

 第三に、実際の活動の場は国内だけではないということだ。大地震などの自然災害に対する国際援助隊が組織された折には、消防職員が海外の災害現場に派遣される。海外で日本人が犯罪に巻き込まれる事件が発生した際には、捜査活動のため警察官が海外に派遣される。国際平和維持活動や災害救助、海賊に対する警備活動、掃海活動(機雷除去)のため、自衛隊は何度も海外に派遣されている(表2)。

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 ここで考慮すべきことがある。日本は、世界の中でも衛生環境がとても良好な国であるが、派遣先の国々の衛生状態は必ずしも良いとは限らない。特にアフリカや東南アジア、南米では、日本国内には存在しない感染症に罹患するリスクがあり、現地の医療環境も日本国内と同等のものは望めないのだ。これらの国に派遣される可能性のある職員には、渡航先でのリスクと任務・滞在期間に応じて、必要な予防接種を受けてから海外に赴くことが合理的である。

 海外に派遣される者に必要なワクチンの種類は、渡航先によって異なるため一律に決めておくことはできない。黄熱、コレラ、狂犬病、腸チフス、日本脳炎、A型肝炎、髄膜炎菌感染症など多岐に及ぶ。ワクチンがないために予防薬の携行が必要な感染症としては、例えばマラリアが挙げられる。海外へ社員を赴任させる企業では、赴任先のリスクに応じてワクチン接種を済ませ、予防薬を持たせた上で渡航させる。公務員の場合には、所属する官庁や自治体によって対応が異なっている。

 国家公務員であるか地方公務員であるかを問わず、時には国を代表しての、或いは国際社会の一員としての責務を果たすために派遣される者が、派遣先でそうした感染症に罹患して健康を害するようなことがあれば、これは公務上の傷病となる。予防のためのワクチンを接種しなかったのは何故か。そんな後悔は罹患した者にも派遣を命じた者にも後世付きまとうだろう。

 一方、理由の如何を問わず海外に派遣される日本の公務員を感染源として、派遣先の国で感染症が流行するような事態が発生すれば、

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