2014年10月10日
安倍政権は大胆な金融緩和を打ち出し、金融政策を大きく転換させるのに成功した。株式相場は息を吹き返し、為替は円安に修正、雇用環境も改善しつつあり、こと経済においては順調な滑り出し、安倍首相に高支持率をもたらした。
一見好調だった経済だが、今年4月に5%から8%に引き上げた消費税増税によって先行きに暗雲が漂い始めている。デフレ脱却が再び遠のくのか、アベノミクスは変質したのか、そして財政再建や経済成長はどうなるのか。政権発足当初に随時連載したシリーズ「アベノミクスを聞く」に登場頂いた識者を中心に再び評価を聞いていく。
まず第1回は、リフレ派の代表的な論客の一人、早稲田大政治経済学術院の若田部昌澄教授にご登場願った。
――アベノミクスのこれまでの評価はいかがですか?
金融緩和は成功だったでしょう。金融緩和によって景気が良くなりました。経済で大事なのは成長率とインフレ率と失業率という3つの指標です。これを見ると、実質経済成長率は消費税増税の影響を除けば上昇してきましたし、インフレ率も高くなって「いよいよデフレから脱却」というところまできてたどりつきました。アベノミクス開始で就業率(15歳以上人口に占める就業者数)は上がり、失業率も下がり続けています。
消費税の税率引き上げがなければ、まずまず合格点だったのですが、4月の消費税増税によってマクロ経済のパフォーマンスが悪くなりはじめています。いまが景気後退局面であるのはまぎれもない事実。これまでのプラスの効果が大きかったので、多少マイナス効果があっても、ネットでみると差し引きでまだプラスですが、これからマイナスの影響が大きくなっていかないかと心配です。
一方、安倍政権の「第2の矢」である財政出動は、予想していたことですが、公共事業中心の財政政策は限界に来ていると思います。当初のころはそれなりに意味はあるかと思いましたが、いまは公共事業を発注しても引き受けるところがなく、未達がだいぶ出ています。
その次の「第3の矢」の成長戦略は、やっぱり国が経済政策を主導したいというターゲティング政策的な側面と、官の規制を緩める規制緩和路線とがせめぎあってきました。2014年の2回目の「日本再興戦略」には多少規制緩和的な政策が盛り込まれるようになって、そこは悪くはないのですが、貧困層対策や社会保障・年金改革といった所得の再分配のようなきわめて重要な問題は手つかずのままです。
むしろ消費税は逆進的な構造があるので、低所得層の負担が大きく、高所得層ほど負担が小さいという問題が現実に起き始めています。政府は低所得者層に簡素な給付を配るとしていますが、それはこれからの話ですし、1年半で1万円という本当に「簡素」なので、全然足りない。
――消費増税でどんな影響が出ていますか?
端的に言うと、景気が悪くなっています。内閣府が9月8日発表した4~6月期の四半期別GDP速報によれば、年率換算で実質経済成長率がマイナス7・1%と大きく落ち込んでいます。
そもそも日本はGDPギャップ(実際の需要と供給力の差を示すもの)が大きく、90年代はずっとゼロより下だった。小泉政権のころ、あるいは第一次安倍政権の2006年ごろまでは少しプラスになったのが、これが08年のリーマンショックで再びマイナスに落ち込みました。第2次安倍政権の金融緩和などで再びゼロ近傍まで上昇したのに、また下がってきました。需要が不足しているのです。
消費税を増税したので消費に悪影響あります。生産活動は出荷が伸び悩んで在庫が増えるという、典型的な不況のパターンになっています。モノが売れないので企業も投資を手控え、設備投資が強くない。しかも輸出の伸びも弱い。
賃金もボーナスの影響のあった7月は良かったのですが、増税のせいで実質賃金は落ち込んでいます。おそらく増税がなければ一般労働者の実質賃金の伸びはプラスに転じていたでしょう。それまでよかった雇用も、6月、7月は2カ月連続で完全失業率は悪化し、3・8%になりました。8月は3・5%と一見改善してみえますが、女性の労働参加率が落ち込んでいて求職活動をあきらめる人が増えている。求人倍率の改善も止まっているし、求人数も減少。新規求人倍率、新規求人数ともに小幅悪化している。これまでよかったのが、ちょっと危ない状況に来ています。
――しかし財政再建のために消費税増税は必要なのではないでしょうか?
増税派は必ず「財政再建は必須で緊急だ。増税しないと国債金利が高騰して大変」とか言うんです。あるいは「財政再建は国際公約」だとか、「法律に書いてあるからやるしかない」とか、「財政再建をすれば社会保障が充実して不安が解消して景気が回復する」と。
しかし、それは逆なんですね。財政状況が悪いのは
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