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[2]「草食男子」は褒め言葉だったのに

まとめ:WEBRONZA編集部

竹信三恵子、深澤真紀

 竹信 ここからは深澤さんにお話していただきます。このトークセッションで、なぜ深澤さんに対談をお願いしたかというと、深澤さんが世に送り出した「草食男子」という言葉がものすごく変な形に歪められて使われてしまっているからです。

拡大竹信三恵子さん(右)と深澤真紀さん

 実は私、そのことを今回の家事ハラの問題が起きる前に知っていたんです。家事ハラの本の中にも、女性と自然体でつきあえる「草食男子」を軟弱男とする誤用の拡大が、男性のいい意味での変化を妨げたと書いています。なのに、その家事ハラの本について、同じようなことが、また起きた。それが私の怒りに油を注いだといいますか。深澤さんの「草食男子」のことがなければ、こんなには怒らなかったのかもしれません。

 深澤 そうだったんですね。

 竹信 そう、これほどまでには怒りを感じなかったかもしれませんね。では、深澤さんどうぞ。

 深澤 はい。いま話に出た「草食男子」という言葉が「若者を褒めている言葉」だということをご存じの方ってどれぐらいいらっしゃいますか。手を挙げてみてください。やっぱり数人ですね。

 私は竹信さんとは学生時代に知り合っているんですね。『私たちの就職手帖』というミニコミをやっていたんです。その創刊編集長が朝日新聞の記者で、竹信さんの同僚だったんです。

 私は学生時代からジェンダーの問題に興味があったんですね。当時はバブル期でしたが、当時から「バブル的な価値観に乗り切れない男性」も実はたくさんいたわけです。女性だけではなく、そういう男性にも興味がありました。

 そういうバブル的ではない男性と、私のようなバブル的なではない女たちが協調したほうがいいと思っていました。「男はみんな悪くて、女はみんな正義」というような考え方の女性もいますが、私はそうじゃないとずっと思っています。

 女にもいろいろいるし、「女だからといって分かり合えるわけじゃない」と当時から思っていたんです。

 竹信 それはリアリズムですね。

 深澤 「男だから敵」というより、「味方になる男もいるな」という考え方をしていて、編集者になったときに、最初に出した企画のひとつが「セックスレス」。25年前だったので、セックスレスという言葉はまだ日本に来ていなかったんです。それで会議に「セックスレスな男たち」って出したら、団塊とか戦中派の部長とか取締役が……。

 竹信 戦中派?

 深澤 25年前ですから、60代くらいですね。

 竹信 そうか、なるほど。

 深澤 団塊の世代も当時は30~40代ですから。それで、私は当時から今の夫とつき合っていて、それは会社の人も知っていたんですけど、団塊や戦中派の部長たちが、「セックスレスってなんだい、深澤君、君の彼氏はセックスしててくれないのかい」と会議で言ったんですよ(苦笑)。

 「セクハラ」という言葉がまだ広まり始めたばかりの時期だから、「セックスレスの男たち」という企画書を出したら、私が彼氏の相談していると思っているんですよ(笑)。

 こっちはまじめに、「今アメリカではセックスがすべてである、ペニスがすべてであるという思想に疑問を持つ人々が現れている」というまじめな企画書を書いたんですけど、もう「セックスレスな男たち」のタイトルに部長たちは衝撃を受けて。

 竹信 ぐーっといっちゃったわけね。

 深澤 「深澤君、据え膳食わぬは男の恥といってね」と言われて(苦笑)。そこから部長たちのしょうもない武勇伝を延々聞かされて、しかも企画もその時は通らなかった。その後セックスレスという言葉が日本で流行ったときに、「深澤君は着目するのが早かったね」と言われたんですけどねえ(苦笑)。

 もう一つ出した企画は「塾講師シンドローム」です。早稲田だったんですけど、バブル期ってフリーターも流行したので、「就職したくない」という男子も一部にいたんですね。

 竹信 そうなんだ。

 深澤 「就職するのが正しいかどうか分からない」と悩みながら、早稲田だけじゃなくて、いい大学を出ても就職しないで、塾講師になった男子もけっこういたんですね。

 こういう男が増えていると思って、「有名大学を出ても、社会に疑問をもって塾講師になる男たちがいる」という企画書にしたんです。

 すると、その部長たちの怒りに触れて。「俺たちが大学を出て、この会社と共にどうやって歩んできたと思っているのか」「フリーターなんて許さん」と、また怒られて(苦笑)。

 唯一通った企画が、絶対通らないであろうと思ったゲイの企画で、『プライベート・ゲイ・ライフ』という本です。初めて日本の一般のゲイの方が出した本で、

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筆者

竹信三恵子、深澤真紀

竹信三恵子、深澤真紀 

竹信三恵子(たけのぶみえこ)ジャーナリスト・和光大教授
東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授。NPO法人「アジア女性資料センター」と、同「官製ワーキングプア研究会」理事も務める。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。
深澤真紀(ふかさわ・まき)コラムニスト・淑徳大学客員教授
1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。在学中に「私たちの就職手帖」副編集長を務める。卒業後いくつかの出版社で働き、1998年企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役就任。2006年に「草食男子」「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテン受賞。著書に、『女はオキテでできている―平成女図鑑』(春秋社)、『輝かないがんばらない話を聞かないー働くオンナの処世術』、津村記久子との対談集『ダメをみがく――”女子”の呪いを解く方法』(紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです