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第2回 高橋洋一・嘉悦大教授(上) 消費税10%への延期ありうる

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 シリーズ「再びアベノミクスを聞く」第2回は、財務省出身ながら同省のすすめる増税政策に厳しい批判を展開してきた嘉悦大の高橋洋一教授に聞いた。高橋氏は第一次安倍内閣で内閣参事官として安倍晋三首相に仕え、個人的にも親交が深い。アベノミクス政策における首相の影のブレーン的な存在でもある。

 ――まず今回消費税を上げるまでのアベノミクスの評価を概括的にうかがえますか?

高橋洋一氏。「消費税増税までは成功だった」とアベノミクスを評価する高橋洋一氏。「消費税増税までは成功だった」とアベノミクスを評価する

 ほとんどの指標は良かったですよ。就業者数や雇用も良かった。だから消費税増税前までは成功だったというしかないですね。日銀に金融緩和をさせる一方、財政を引き締めしないできた。成長戦略といういわゆる「第三の矢」については、5年ぐらいかからないと成果はわからないと思いますが、とりあえず金融緩和と財政出動は成功だった。

 だいたい日本の左派系の人たちは、金融緩和をまったく理解できていない。みんな外れている。金融政策イコール雇用政策ということを理解できていないんです。こんなのは常識で、欧州の共産党や社民党は、みんな「金融緩和しろ」と言っているのに。

 インフレ率と雇用が逆関係になっているというのを日本の左派は知らないんだ。そういう基本知識を知らない人が日本には多すぎる。米連邦準備制度理事会(FRB)の議長になったジャネット・イエレンは労働経済学者ですよ。雇用重視の人だからオバマ政権はFRBの議長にした。そこを日本の知識人は誰もわからない。日本の民主党を始め左派はそこがまったくわからないから、これは世界でちょっと恥ずかしいレベルです。欧州では中央銀行は左派の牙城ですよ。

 ――なるほど。

 日本に話を戻すと、今回、消費税率を5%から8%に引き上げて増税してしまった。これが大失敗です。金融政策の効果というのは2年ぐらいみないと本格的にならないのに、その効果が現れる前に消費税を上げてしまうと、緊縮財政のほうが金融政策の効果を上回り、マイナス効果になる。それを私はずっと前から言ってきたのですがね。

 それに対して世の有識者たちは依然として間違えている。予測を大きく間違えているのに、ありがたがって使い続けているマスコミの側にも問題はあると思いますよ。見通しを間違えた人は増税のロジックが間違ったということなので恥ずかしいよ。そういうのはジャーナリズムの側できちっと検証したほうがいい。

 ――どういうことですか?

 今回のアベノミクスは稀なことですが、いろんな人が予測をしているのです。その典型例が昨年8月、消費税を今回引き上げる前に行われた経済財政諮問会議の「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」です。経済学者やエコノミストら有識者を呼んで見通しを聞いたのですが、吉川洋さん(東大大学院経済学研究科教授)も伊藤隆敏さん(東大公共政策大学院長、現コロンビア大)も土居丈朗さん(慶応大経済学部教授)も全部はずれじゃない?

《集中点検会合で吉川氏は「財政再建への第一歩」として「消費税率は予定どおり引き上げるべきである」と主張。「瞬間風速としての短期的経済動向に拘泥すべきではない」と述べた。伊藤氏も「消費税率引き上げは予定通りに」と訴え、「景気腰折れの可能性は低い」「増税とデフレ脱却は両立する」と指摘した。土居氏も同様に「予定通りの消費税率引き上げが必要」とし、成長戦略には財政健全化が不可欠と持論を展開している》

 消費税の引き上げというのは実質的にはものすごい緊縮財政と同じことなんです。歳出カットを緊縮財政とイメージしやすいかもしれませんが、増税も緊縮財政と同じことです。5%から8%に消費税率を上げると、税収ベースで8兆円ぐらいの増税になる。GDPの2%弱だからすごく大きい、大きな緊縮財政ですよ。

 ちなみに1989年の消費税創設のときにはゼロの状態から3%にしたわけですが、

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