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「マジメなものつくり」からの脱却

田中洋 中央大学ビジネススクール教授

どこも同じ答えの自社の強み

 メーカーなどを訪問したとき、「御社の一番の強みは何ですか?」とお聞きすることがある。私の経験によればもっとも多い答えが「マジメなものつくりです」というものだ。そこに違和感を感じるのは私だけだろうか。

 「マジメなものつくり」そのものを否定しようというわけではない。これまでに日本企業は特に組立型の製造業において、「マジメなものつくり」で強みを発揮してきたことはつとに知られている。問題は「わが社はマジメなものつくりをしてそれが最大の強みなのですよ」という答えで満足しているその姿勢にある。

 第一の問題は、どこも同じ答えをしているのであれば、つまりどの企業も「マジメなものつくり」が強みならば、それはもはや強みではない、ということだ。つまり差異化ができていないということを告白しているのに過ぎない。本来は「マジメなものつくり」以上の何かを強みにしなくてはならないはずだ。それは何だろうか。この点は後で再び考察してみたい。

マジメと小さな悪事

 もうひとつの問題は、主観的に「マジメにやっている」と思うことが本当に真面目にやっていることなのかどうか、ということだ。自分で真面目にやっていると思ったとしても、それが本当にそうなのかどうかは保証の限りではない。私自身も含めて、人は往々にして自分のやっていることを肯定し、これが最良だと思いたくなる。

 このことは不祥事が生じた会社において、さらにはっきりする。横領などの不正行為を働いた社員ほど周囲から「マジメな社員」として認識されている人は珍しくない。不正行為が発覚してから「あの人がまさか…」と言う証言を聞くことはよくある。

 しかしそれだけではない。多くの人が「小さな悪事」に手を染めていることは、

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