木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト
経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。
トヨタが次世代エコカーである水素燃料電池車(FCV)の市販車を、従来計画より1年早めて今年度中に発売する(下の写真と図=トヨタHPより)。ライバルのホンダは2015年に、日産も17年に発売する予定だ。
経済産業省は20年の東京五輪で、FCVをエネファーム(家庭用燃料電池)と合わせてデモンストレーションし、世界に売り込もうと考えている。国会議員による「水素議連」も出来て後押ししている。
1964年の前回五輪では東海道新幹線をアピールしたが、20年は「水素五輪」を目玉にする。そこからスケジュールを逆算して、経産省は自動車・エネルギー業界にハッパをかけている。
計画では、石油精製所から出る水素や天然ガスを改質した水素をタンクローリーで各地の水素ステーションに輸送し、FCVに供給する。走るときに排出するのは水蒸気だけで温暖化の原因になる二酸化炭素は排出しない。
将来、風力や太陽光など再生可能エネルギーの電気で水素を作って供給するシステムを整備すれば、石油や天然ガス資源が枯渇しても走ることができ、「脱炭素」の理想的なエコカーになる。
そうした利点があるにしても、当事者たちの多くは内心、FCVがこの先順調に普及するとは楽観していない。肝心の水素ステーションの建設が難航しているからで、当分の間、ユーザーは官庁や研究機関、関連企業などに限定されると見ている。
水素の化学的性質や扱い方、水素社会への転換について、国民の理解を深めるための努力も後回しになっている。水素技術に長年取り組んできたある専門家は、
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