2014年10月28日
社員の発明の特許を会社のものとする特許法改正案が、議論を呼んでいる。ノーベル賞を受賞した中村修二さんなど、発明の対価を求める高額訴訟が社員研究者から相次ぎ、経済界が危機感を抱いたことが原因とされる。
だが、今回の動きは単なる特許権の問題ではなく、年功賃金廃止や残業時間ゼロ労働制など、このところ相次ぐ企業の裁量権の肥大化の一環と見るべき現象だ。こうした動きを無過ごしにすれば、戦後の経済成長をもたらした成長の成果の働き手への還元の仕組みが日本から失われていくことになりかねず、経済回復の阻害要因になりかねない。
今回の議論では、特許権を発明した社員から会社に移行させる代わりに報奨金を義務付けるとしている。だが、特許権が本来、企業にあるとされれば、社員は発明の対価に異議を申し立てる根拠そのものを奪われかねない。「本来の権利は社員」とされているからこそ、社員は報奨金の引き上げを求めることができるからだ。
10月16日朝日新聞で改正賛成派の研究者は、「社員が発明の報奨金に不満がある場合は、ドイツやフランスにならって労使紛争を解決する調停制度をつくれば、コストと時間のかかる裁判に頼らずにすむ」と発言している。だが、産業横断的な労組が、企業の壁を超えて働き手の権利を守る土壌があるドイツ・フランスとでは、労使紛争をめぐる状況は大きく異なる。
日本では企業別労組が自社の成長に協力し、これによって拡大したパイを労組員に分配するよう交渉する。その結果、企業内労組は、個別組合員の利益より企業利益を大きくすることに関心を持つ。そんな中で、企業と利益が反する立場に立たされた社員のよりどころは、法律くらいしかない。その法律までもが、企業の権利を後押しすれば、社員は黙るしかない。
報奨金を義務付けたとしても、報奨基準を会社が決めてよいとなればその額は社内規程によって、好きなように押し下げられる。仮に国が基準を決めたとしても、社員はその枠を超えた貢献を主張することはできなくなる。
欧州に比べて労組の力が弱い米国では、「特許は社員のもの」とすることで、社員が転職や起業という形で発明対価の下落に歯止めをかけられるようにしている。労使交渉を通じてではなく、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください