2014年10月29日
中央大法科大学院の森信茂樹教授は元財務官僚で税制に精通している。1997年に消費税率を5%に引き上げた際の旧大蔵省における担当課長でもあった。今回の消費税率引き上げによって景気の落ち込み懸念が広がっているが、高齢化社会の進展につて増大する社会保障費の捻出のために、消費税率引き上げの必要性を力説する。
――リフレ派の経済学者の間で「今回の消費税率の8%への引き上げが、やっと復調してきた景気回復の芽を摘んだ」という批判があります。
私は、日本が高齢化社会を迎える中にあって、問われているのは法人税減税と消費税増税のパッケージだと考えています。この二つをパッケージで決め、成長戦略を本気で行えば、中長期に日本経済は輝きを取り戻すと思います。
いま法人税が高いことによって、企業の付加価値が日本から逃げているという現実があります。半導体製造装置メーカーのアプライドマテリアルズと東京エレクトロンが経営統合しますが、新設される持ち株会社の本社は米国でも日本でもなく、低税率国のオランダです。これは「インバージョン」という租税回避で、これに対して米国ではオバマ政権も議会も怒って、対抗措置を講じようとしている。
このような企業の行動は、決して違法ではないけれど、法人税率が高いと、企業はこういうふうに海外に付加価値や所得を移していかざるをえない。だから税率を引き下げて防止するしか有効な方法はない。しかし、我が国は財政再建途上なので、法人税を払う課税ベースを広げて財源を出しながら、税率を下げていく必要がある。
消費税については、来年10月からの10%への税率引き上げは予定通りやるべきだ。法人税の課税ベースを引き上げたうえで税率を引き下げ、さらに消費税率を上げて、社会保障を支える。この二つを同時にセットでやるのが、国民にとっても海外投資家の評価を得る上でも重要だと思いますよ。我が国の株を支えているのは海外の投資家ですから、彼らが「安倍政権は国民に痛みを伴うこともやる政権だな」と評価することは重要です。
私は、外国証券会社の依頼を受けて欧米やシンガポールの投資家、ファンドの幹部と毎週のように話す機会があります。彼らとの会話を通じて感じることは、「彼らに隙を見せる政策をやってはいけない」ということ。隙を見せると彼らはストーリーをつくって仕掛けてくる。「日本は高齢化で貯蓄もなくなり、経常赤字も赤字が定着した。もはや国債を買い支えるカネがない」といったスト―リーを描いて、日本売りが仕掛けられる。
今は日銀が必死に買い支えているから何とかなっていますが、これには必ず終わりが来るわけです。そうなれば、金利急騰、利払い増加でますます財政赤字が拡大し、最終的にはハイパーインフレというメカニズムになる。日本の経済運営に隙があれば、そうやって攪乱される。それがギリシャであり、スペインだったでしょう。
――消費増税による経済環境の悪化をどう思いますか。
そもそも「想定外」などと言われていますが、「想定が甘い」と思います。
増税前に駆け込みがあってその反動で落ちるのは仕方がないとしても、年率換算で7兆円強の所得が消費者から国に移転しているので、簡単には増税前の状態には戻らない。そこが、そもそも十分に認識されていない。
私から見れば、ホントの「想定外」は、円安になれば輸出が伸びるはずなのに、伸びていないということです。実質ベースでほぼ横ばい。この間の円高局面で日本企業は海外に生産拠点を移転させて為替変動に惑わされないようにしてしまった。むしろ円安に振れすぎると輸入コストが上がって、インフレになる。この円安効果が大きく表れなかった点が想定外だった。
もう一つの想定外は、
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