まとめ:WEBRONZA編集部
2014年11月07日
深澤 今回の家事ハラの騒動でもう一つ興味深いなと私が思っているのは、「ちゃんと家事をする幻想」というか、「丁寧に暮らすシンドローム」みたいなものですね。
「丁寧に暮らしたいですか」と問いかければ、「いいえ」と答える女性はほとんどいない。家事ハラ騒動の背景には、女性がちゃんと家事をするという暗黙の了解のようなものが横たわっているんですね。例えば、いつ友達が訪ねてきても、きれいに部屋が整えられているから大丈夫とか、気の利いたものもすぐに出せる、なんていうような幻想です。
竹信 無理だね。
深澤 でもそういう幻想はあるんですよ。お米は土鍋で炊き、電子レンジも使わずに料理してというような。
竹信 ああ、ありますね。
深澤 「ちゃんと丁寧に暮らす幻想」みたいなことがある。しかもこの幻想からは、フェミニストすらもあまり逃れられないんですよね。家事の手抜きをしようとか、電子レンジでチンとか、コンビニめしで済まそうとか言うのは許されない。
竹信 そんなにちゃんとしたいなら火を起こすところから始めればいいのにね。
深澤 本当にそうですよね。あとすぐ「伝統が」とか言い出す。「着物をきちんと着られなきゃ日本の伝統が泣く」とか言うんですけど、日本の伝統だったら貫頭衣でも着ていればいいのに。
竹信 そう。貫頭衣だよね。
深澤 着物なんて、江戸期の大店のお嬢様が着ていただけだから。
竹信 確かに。
深澤 最近のコンビニめしなんかは相当ちゃんとしているからね。それなのに、「だめよ、コンビニなんて」と言われちゃう。私は、「いいじゃん、大変なときはコンビニで、けっこうおいしいよ」と思うんですよ。
だから、我が家はもう「丁寧に暮らさない」と決めたんです。仕事も忙しいし、丁寧に暮らしてたら大変なことになっちゃうから。でも、この家事ハラに傷ついた女性たちは、丁寧に暮らさなくちゃという呪いにもかかっているんだと思うんですよ。
竹信 そっちで怒ったということね。
深澤 それもあると思うんです。洗濯物の干し方でもめたりするといいますけど、我が家は、例えば洗濯でも、私のおしゃれ着は私が洗い、夫は夫でこだわりのあるシャツなんかは自分で洗う。そのかわり、どうでもいい、伸びても構わないものは二人で洗うようにしている。だから、私、夫、どうでもいいというかごが三つあるんです。
竹信 いいアイデアだ。
深澤 それから食器用の洗剤も私は肌が弱いからせっけん系の洗剤しか使えないの。でも、夫はそれだと落ちが悪いと不満なんですよ。だから、我が家の台所には、お風呂場の銘々のシャンプーみたいに食器用の洗剤も2種類あるんです。どちらかに合わせることないですから。
ただ、家事を二人でやると、いつの間にか嫁姑問題みたいになるんですね。それで、女性はなぜか姑の位置を取ろうとしてしまう。それでは嫁の立場にされてしまう夫はしんどいですよね。それはやめたほうがいい。友達同士のシェアハウスの家事のように分担した方がいいですよ。
でも、我が家もお互いにお互いの家事にはちょっと不満を抱いていますよ。ただ、大事なことは何かというと、2人とも忙しいから家事さえできていればいい。そう思うことなんです。
竹信 理想ですね。それは正しいスタイルですよ。
深澤 でも家事ハラに怒った女性たちは、家事をきちんとしなければいけないという呪いにかかっているような気がします。
竹信 そうでもないと思うよ、もっと違うことで怒っていると思う。
深澤 もちろん違うことでも怒ってるは思いますよ。竹信さんとか私の家は適当だと思いますが(笑)、多くの働く女性たちはびっくりするぐらい忙しいのに、ちゃんとしているわけですよね。女性誌の影響も大きくて、「丁寧な暮らしを」とか、「夫婦で尊敬し合って、高め合って」とか、そういうコピーに支配されてしまう。
竹信 抑圧的ですよね。
深澤 夫婦なんか高め合わなくていいでですよ(笑)。
竹信 南野忠晴さんという人が書いた岩波ジュニア新書で、『正しいパンツのたたみ方』というのがあって、たたみ方の流儀が夫と妻で違うという……。
深澤 パンツのたたみ方って違いますよ。
竹信 違うと妻に責められたりして。これは文化衝突なんですよね。
深澤 本当にそうですね。
竹信 だから異文化への許容度をもっと高めなきゃいけないという。
深澤 夫は、隣の国のような異文化ですから。
竹信 そう、隣の国なんだから関係ないんですよ。私も、部屋の中の夫の領域と自分の領域に線を引っ張って、相手のものは全部投げ込むとかしていた時期ありました。夫の本とか脱いだ服とか、片付けないまま増えていくので、頭に来て、線を引っ張って、
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