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吉野川河口の危機、価値観の転換はなるか?(下)

まさのあつこ ジャーナリスト

 たとえば、あなたが長年働いて建てたマイホームを、突然、誰かに破壊されたら、あなたは最低でも「なんてことをするのか!」と憤り、弁償を求めるだろう。しかし、タダ同然と見なされてきた「生態系」は、たとえ生物にとってかけがえのない生息域でも、壊されても壊されても、人間の目には止まらず、失われる価値は顧みられることもなかった。

 その価値を金銭に換算して可視化する研究は、長年、世界で試みられてきたが、2010年についに愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議で取りまとめられ、発表された。

 『生態系と生物多様性の経済学』報告書と言う。頭文字をとって「TEEB(ティーブ)」とも呼ばれる。2007年にドイツで開催されたG8+5環境大臣会議で提唱された成果だ。生物多様性の喪失を食い止めないと、どれだけの価値を失うのかを政策決定者や企業、社会全体によりよく理解してもらうことが目的の報告書だ。

価値観の転換を目指す環境大臣はいずこ

 日本の環境省はパンフレットは作成したが、肝心の法改正への意欲はイマイチ。価値観の転換を目指して奔走する環境大臣にも恵まれない。安倍政権は、真逆の政策ばかりを進めている。

拡大TEEBを紹介した環境省のパンフレット

 2013年臨時国会では「国土強靱化基本法」が成立した。これは、2012年に自民党が野党時代に10年間で200兆円の公共事業費を確保する政策として発表したのが発端だ。

 成立した法律には「防災・減災等に資する」というフレーズがタイトルに入り、「地域の特性に応じて、自然との共生及び環境との調和に配慮すること」という一言が条文に入ったが、2014年の国土強靱化予算総額は3兆3287億円で、結局はその8割強が公共事業だった。世界の潮流と逆行している。

計画通りの四国横断自動車道

 法律に先駆けて閣議決定された国土強靱化政策大綱では高速道路は防災のための「代替輸送ルート」と位置づけられた。小泉政権が試みた高速道路改革は失敗したことは「複雑怪奇!法的根拠なき高速道路の整備手法「薄皮まんじゅう方式」とは何か」でも書いた。

 このような行政裁量で進める高速道路事業とは別に、採算が取れる区間を高速道路会社が、採算割れする区間を国が作り、有料と無料の高速道路を継ぎ接ぎで作る方式も進められている。その一つが「四国横断自動車道」〔鳴門ジャンクション(JCT)~小松島インターチェンジ(IC)区間〕だ。

 鳴門から吉野川を渡り切る「鳴門JCT~徳島JCT~徳島東IC」区間を西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)が、橋以南の「徳島東IC~小松島IC」区間を国土交通省が新直轄方式で作る。1991年の基本計画の決定以来、1994年の都市計画決定、1996年の閣議アセスを経て、2006年に事業主体がそう変更され、推進され続けてきた。あるのは決まった通りに高速道路をつなげるという発想だ。

出典:NEXCO西日本「四国横断自動車道~吉野川渡河部の環境保全の取組み~」拡大出典:NEXCO西日本「四国横断自動車道~吉野川渡河部の環境保全の取組み~」

 この中で特に注目されるべきは、吉野川河口を横切る区間だ。吉野川と言えば、 ・・・ログインして読む
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筆者

まさのあつこ

まさのあつこ(まさの・あつこ) ジャーナリスト

ジャーナリスト。川で泳ぐことが好き。1998年より衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。主な著書に、「四大公害病」(中公新書 2013年)、「水資源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館 2012年)、「日本で不妊治療を受けるということ」(岩波書店 2004年)。共著等に「ダムを造らない社会へ」(新泉社 2013年)、「八ツ場ダムは止まるか」(岩波書店 2005年)など。

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