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原発賛否で安倍内閣・経産省が秘密にしておきたいこと

小森敦司 朝日新聞経済部記者(エネルギー・環境担当)

 原発再稼働を進める安倍内閣と経済産業省にとって、それは世間に知られてはならない秘密だったのだろうか。新しいエネルギー基本計画をつくるときの「パブリックコメント」で、脱原発を求める意見が9割を超えていたことが、朝日新聞の集計・分類でわかった(以下の12日朝刊)。「原発維持・推進」は1%だった。政府はそうした原発の賛否割合という重要な国民の前に示さなかった。脱原発の声が多くなるとみて、あえて分類しなかったのか。それでいいのか。

「脱原発の声9割超 パブコメ、基本計画に生かされず」
(朝日新聞DIGITAL)

 最初に断っておくが、筆者も、民意を探る手段としてパブコメが万能とは思わない。パブコメは、強い思いを持つ人が出す傾向がある。それでも、国民が直接、政府に政策づくりで意見を言うことができる大切な手法だと思う。原発のような意見が分かれるような重要な問題では、その賛否割合も知っておくべき情報のはずだ。

拡大九州電力川内(せんだい)原発(同県薩摩川内市)。鹿児島県の伊藤祐一郎知事と池畑憲一県議長は10日、東京・霞が関の経済産業省で宮沢洋一経産相と会談、その再稼働に同意したことを報告した

 その点で、貴重な前例がある。民主党の野田内閣は2012年夏、2030年代の原発の依存度をめぐって、「国民的議論」としてパブコメや各地での公聴会などを実施した。このパブコメでは、約8万9千件のうち87%が、「0%」を選んだ。

 野田内閣は、さらに公聴会やマスメディアの世論調査なども参考にして、国民の過半数が原発に依存しない社会を望んでいると判断し、「30年代に原発稼働ゼロ」の方針を決めた。この民意を政策に反映させようとした試みは、もっと評価されていいと筆者は思う。

 自公連立の安倍内閣に変わって後の今回の政策決定はどうだったろう。時の政権の意向に従ったものだろうが、経産省は昨年12月6日、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた基本計画の原案を示し、それから1カ月間、パブコメに付した。

 経産省は今年2月、集まった意見は約1万9千件だった、と発表した。民主党・野田内閣の時より、数が大きく減ったのは、原発維持に動く安倍内閣へのあきらめ感だけでなく、パブコメを求めているという国民へのPRも足りなかった、と筆者は思う。

 この2月の発表時、経産省はパブコメに寄せられた主な意見も明らかにしたが、原発の賛否割合という重要な情報は出さなかった。経産省の担当者に聞くと、そもそも今回は原発への賛否を分類していない、という。当時の茂木敏充経産相は「数ではなく内容に注目して整理を行った」と国会で説明した。

 しかし、どうだろう。あれだけの災禍に見舞われた東京電力福島第一原発事故の後、はじめてのエネルギー基本計画だ。原発政策のあり方が問われているのは、民主党・野田内閣のときと変わりないはずだ。やはり、パブコメなどを通じて、政府として原発への賛否という民意を探る必要があったのではないか。選挙で勝てば何でも許されるわけでもあるまい。

 政府がやらないなら自分で分類をやってやる。筆者は今年3月、経産省に対して、パブコメに寄せられた意見のすべての開示請求をした。膨大な量になることは分かっていた。筆者はもう経産省の情報公開窓口の常連になっているが、さすがの窓口担当者も驚いていた。

 さて、開示されるだろうか。民主党・野田内閣のパブコメでは基本的にその「コメント」が開示されていた。だから、非開示決定はできないはず、とひそかに思っていた。予想どおり、経産省は5月上旬、個人情報保護のために名前を消す作業の終わった2301ページを開示し、今年9月上旬には残る1万8628ページを開示した。コピー代は1枚10円。つまり全部のコピーをもらうのに、20万円余りの費用がかかった。

 ということで、9月上旬、筆者の目の前に、2万枚を超えるコピーが積み上がった。重ねたら1メートルを超えるだろう。

 どう分類しよう。微妙な判断も求められそうでアルバイトを使うわけにはいかない。日々のニュースに追われている前線の記者に応援を頼むのも心苦しい。やはり、独力でやるしかないな、と覚悟を決めた(実際には、すこし同僚らの助力を仰いだ)。

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筆者

小森敦司

小森敦司(こもり・あつし) 朝日新聞経済部記者(エネルギー・環境担当)

東京都出身。1987年入社。千葉、静岡両支局を経て、名古屋や東京の経済部に勤務、金融や経済産業省を担当。ロンドン特派員も経験し、社内シンクタンク「アジアネットワーク」では地域のエネルギー協力策を研究。現在、エネルギー・環境分野を担当、とくに原発関連の執筆に力を入れている。著書に「資源争奪戦を超えて」「日本はなぜ脱原発できないのか」、共著に「失われた〈20年〉」、「エコ・ウオーズ~低炭素社会への挑戦」。

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