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消費増税と財政、政府と日銀の意思疎通の齟齬が歴史を狂わせないか

小林慶一郎 慶応大学教授(理論マクロ経済学)

 社会学者の橋爪大三郎氏との対談『ジャパン・クライシス』(筑摩書房)を10月に出版した。ジャパン・クライシスとは、日本の財政の危機的状況のことである。このままいけばハイパーインフレというかたちで国家債務の「踏み倒し」が起きるのではないか、という橋爪氏の危機感あふれる問いかけで対談が実現した。

 橋爪氏は人文系の論壇では有名だが、もちろん財政や経済の専門家ではなく、本人もそれを自認している。しかし、それでもなお財政の危機を訴える本を作る決意をし、実際に経済学者(筆者)と対談して本を世に問うた。私はこの橋爪氏の行動は日本の公共的な人物の行動として、本当に立派だと思う。

 むしろ、経済や財政についての「非専門家」のオピニオンリーダーたち(思想家、作家、芸術家などなど)が、橋爪氏に続いて、日本の財政の状況について真剣に考え、財政についてもっと疑問や危機感を発信すべきではないか、と思っている。

 フランスの政治家モルゲンソーは「戦争はあまりにも重要な問題なので、軍人に任せておくわけにはいかない」という名言を残したが、いまの日本について言うなら、「財政は国民生活の将来にとってあまりにも重要な問題なので、財政・経済の専門家に任せておくわけにはいかない」というべきだろう。

政府と日銀の意思疎通の齟齬

 本稿執筆時点(2014年11月13日)において、消費税の税率を10%に再増税することを延期するかどうかが政治の場で議論されている。いま起きていることは、どう理解すればいいのだろか。

追加緩和について説明する黒田東彦・日銀総裁追加緩和について説明する黒田東彦・日銀総裁
 太平洋戦争の開戦前に、日本の陸軍は「海軍がアメリカとの戦争に反対すれば戦争できない」と思っていたが海軍は「アメリカと戦ったら負けるので戦争に反対」と言い出せず、結局、陸海軍のどちらも積極的に望まないのに、対米開戦に突き進んだ、という話を読んだことがある。同じような意思疎通の齟齬がいま政府と日銀の間で起きようとしているのではないか。

 10月末の日銀の追加緩和は、日銀の意図はともかくとして、円安と株高をもたらし、結果的に、政府が消費税の増税を決断する「地ならし」として機能した。経済状況が良くなれば消費税の再増税をおこなう、というのが政府のいわば公約であったから、日銀が追加緩和すれば当然に政府が増税に傾くであろうことは、経済を見ている者はだれもが想定していた。ところが、株価が上がっているのを幸いに(解散総選挙をして)、消費税の再増税を先送りまたは白紙に戻そうということになれば、日銀の追加緩和は、政治に梯子を外されることになる。

 黒田東彦総裁は、記者会見で「消費増税をして景気が悪化した場合は日本銀行として打つ手があるが、消費増税をしない結果として経済が混乱したら日本銀行として打つ手はない」と繰り返し表明してきた。もし今、政局が大きく動いて、消費税の増税を先送りするという政治決定がされた場合、

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