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「年金の日」に考える、そもそも年金とは何か

年金の市場化とは親子関係の市場化だ

神野直彦 東京大学名誉教授(財政、税制)

 11月30日は「年金の日」である。11を「イイ」、30を「ミライ」と読ませ、「いい未来」という語呂合わせから、11月30日を「年金の日」と設置したようなので、この日自体に特別な意味があるわけではない。とはいえ、いずれの先進諸国も年金問題に苦悩して明け暮れている現実を考えると、こうした記念日を設け、立ち止まって、そもそも年金とは何かという根源的な問いを省察しようとすることには意義があると考える。

ビスマルクが導入した社会保険

 社会保障制度は私の専攻している財政学と不可分の関係にある。財政学は社会問題が噴出した19世紀後半のドイツで誕生する。社会保障制度の基軸をなす社会保険は、ワグナー(A. Wagner)によって大成された財政学を背後理念として、ビスマルク(O. v. Bismarck)の強力なイニシアティブのもとに、1883年の医療保険、1884年の労災保険、1889年の障害・老齢年金保険という「社会保険三法」として導入されたからである。

 こうした社会保険は、労働組合が実施していた、疾病などの事由で賃金を喪失した際に、相互扶助する共済事業を、強制加入として制度化することで誕生する。つまり、ワグナーにいわしめれば、「準国庫組織」として普及していた共済金庫に、強制加入という条件を付与することによって、社会保険は成立したのである。

 しかし、亡くなられた加藤榮一東大教授がつとに指摘するように、社会保険でも年金は様相を異にしていた。というのも、ビスマルクは年金を煙草専売による国家資金で丸抱えにすることで、国民の国家への体制統合を構想していたからである。ところが、煙草専売が議会で否決され、事業主と被雇用者が年金財源を折半して負担することになってしまう。そのためビスマルクは、実現した年金制度を「取り替えられた醜い赤ん坊(Wechselbalg)」と嘆いたのである。

市場が分解していく共同体

 年金を「国家の施し」として給付すれば、国家への体制統合が可能となるというビスマルクの発想は、市場機能が拡大していくと、共同体機能を浸蝕してしまうという認識にもとづいている。市場は共同体を包み込み、共同体を小さく分解していき、現在では「最後の共同体」としての家族にまで分解されている。

 もちろん、家族という共同体の内部では市場は機能しない。家族の内部で市場を動かせば、

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筆者

神野直彦

神野直彦(じんの・なおひこ) 東京大学名誉教授(財政、税制)

1946年生まれ。1969年東京大学経済学部卒業。日産自動車株式会社勤務を経て1978年東京大学大学院経済学研究科修士課程取得、1981年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専門は財政学、地方財政論。大阪市立大学助教授、東京大学大学院教授などを経て、2009年より東京大学名誉教授。現在、地方財政審議会会長、税制調査会会長代理、社会保障審議会年金部会部会長、地方分権改革有識者会議座長など多数の審議会等委員を務める。近著に『「分かち合い」の経済学』(岩波新書)、『税金 常識のウソ』(文春新書)がある。

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