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総選挙で金融政策についての国民合意ができた

金融政策は円高を抑えることができる、金融政策でデフレから脱却することができる

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

争点から消えた金融政策選挙

 戦も中盤に入ってきたが、金融政策を巡る論争が消えてしまったように思える。民主党は大胆な金融緩和ではなくて柔軟な金融政策でなければダメだと言っていたが、柔軟な金融緩和では国民に分からないとなって言わなくなってしまった。

 もちろん、円安でガソリン価格が上がっているからけしからん、原材料を輸入している中小企業は円安で困っているという議論は残っているが、自民党に、「では円高のままで良かったのか」と言われると野党はうまく反論できない。それに、自民党は、ガソリン価格高騰を埋め合わせるためや困っている中小企業に、補助金を配ると言っている。金融政策については、野党は攻めあぐんでいる。

 野党とは、与党を支持しない国民を代表している党だから、結局、大胆な金融緩和は良いものだと国民に認められたということだ。大胆な金融緩和を昔から唱えてきたリフレ派のエコノミストである私としては嬉しい限りである。

 金融政策について国民の間で対立があれば、金融政策が不安定なものになってしまう。与党も野党も、すなわち、ほとんどの国民が「過度な円高は良くない、金融政策は円高を抑えることができる、デフレは良くない、金融政策によってデフレから脱却することができる」などの共通認識を得た訳だ。この共通認識があれば、金融政策は国民に立脚した安定的なものとなる。

つまらない議論を大事と思う人は政治家に向いていない

 一部の金融専門家が金融緩和政策への強固な反対論を唱えているが、その根拠は薄弱である。

 彼らの論点は、

 (1)金融緩和を進めていけばいずれインフレになる(いくら金融を緩和してもインフレにはならないと言っていたんですけどね)。インフレになれば金融を引き締めなければいけないが、金融を引き締めれば金利が暴騰し、債券価格が暴落して日本銀行のバランスシートが毀損し、通貨の信用が破壊される。

 (2)金融緩和とは日本銀行が国債を大量に買うことであるから、政府の財政規律を弱め、国債に対する信認を低下させて国債の暴落を招く。

 (3)いずれ日本銀行が国債を買い入れた分を元に戻さないといけないが、それは金利の高騰を招き、経済を危機に陥らせる。すなわち、金融緩和政策を止める出口がない等である。

 野党の政治家はこんな話を聞いてもっともだと思っていたのかもしれないが、いざこの議論を自分で国民に説明しようとして、何を言ったら良いか分からなくなってしまったのだろう。自分でも良く理解できていない、細かなつまらない議論を大事だと思うようでは、そもそも政治家に向いていない。

 上記三つの議論の欠陥は、あるところで関係する変数が大きく変化し管理不能になるという主張に依拠していることだ。

 (1)の議論については、2%を超えるインフレになれば金融を引き締めなければならないが、一挙に物価や金利が暴騰する根拠はないということだ。少しずつ上がっていくのだから、債券価格も少し下がるだけだ。したがって、日本銀行のバランスシートは少し傷つくだけである。そもそも、日銀のバランスシートが傷つくと何が困るのだろうか。

 (2)の議論は、収入があれば使ってしまい、財政規律が弱まると言っているに等しい。であるなら、景気が良くなって自然増収が上がっても、消費税を増税しても、使ってしまうことになる。実際、税収が上がるから大丈夫となって、自然増収を景気対策に、消費税を現在の高齢者向けの社会保障に使っている。これでは財政赤字が減るはずはない。これは金融政策とは関係がない。

 (3)の議論が言うように日本銀行が国債を買い入れた分を元に戻す必要はそもそもない。日本銀行が国債を売らなければならないのは、インフレ率が2%を超えた時だけだ。売却量は、インフレ率が2%を大きく超えないようにするためだけの量だ。量的緩和をする前の量に戻す必要はない。

野党は別のことを突くべきだ

 左翼の野党政治家がこんな議論に惹かれるのは、資本主義が不安定であり、金融政策がそれをさらに不安定にするというイメージが、革命思想を学んだ頭にストンと落ちるからかもしれない。しかし、資本主義が崩壊しなかったように、金融緩和政策が崩壊することもない。

 野党は、与党の成功した政策を取り込みつつ、与党の欠けているところを突かなければならない。金融政策で突くのは止めて、別のことを考えなければ、自民党一強支配体制は続くだろう。