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自民党の圧勝には明白な理由がある!

有権者は健全な判断力を持った常識人、アベノミクスによる景気と雇用の改善を評価した

吉松崇 経済金融アナリスト

 「大義なき解散・総選挙。」「増税延期には各党賛成しているのだから解散は不要だ。」今回の解散・総選挙を安倍首相が表明したとき、この選挙は実に不評であった。当初、大方の選挙予想は自民党が30議席くらい議席を減らす、というものだった。だが、蓋を開けてみると安倍・自民党の圧勝である。

 自民党が圧倒的に勝利することは、選挙戦の中盤でのマス・メディア各社の世論調査でほぼ判明していたが、この選挙予想の突然の変化が、野党各党には相当にショックだったようだ。だが、過去の選挙結果を顧みれば、自民党圧勝という結果は簡単に予測できたように、私には思える。

選挙結果は雇用で決まる!

 下の表を見て頂きたい。これは、2000年以降の6回の総選挙と選挙時点の2ヵ月前の完全失業率と就業者数をまとめたものだ(「就業者数」とは雇用者と自営業者の総数である)。2カ月のラグは、選挙時点で判明している雇用に関する統計(総務省の労働力調査)が、通常2カ月前のものだからである。

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 この表の獲得議席数(率)から見て、解散権を行使した首相がはっきりと選挙で勝利したといえるのは、6回のうち2回しかない。2005年9月のいわゆる「小泉郵政解散」と今回である。そして、この2回の選挙では、前回の選挙時点と比べて雇用状況が大きく改善している、という共通点がある。

 「小泉郵政解散」では前回選挙時点に比べ、失業率が5.2%から4.4%へと0.8ポイント改善し、就業者数は55万人増えている。どうやら「小泉劇場」「刺客」といった小道具だけで勝利した訳ではなさそうだ。

 今回の選挙では、前回選挙時点と比べて、失業率が4.1%から3.5%へと0.6ポイント改善し、就業者数は65万人増えている。特に注目すべきなのは、最新時点(10月)の失業率(3.5%)である。2000年以降6回の総選挙の時点で、失業率が3%台にまで低下していたのは何と今回が初めてである。これでは、野党がいくら「アベノミックスで雇用が増えたのは非正規だけだ」と批判しても説得力がないだろう。非正規雇用でも失業しているよりははるかにマシである。民主党政権下の3年間では雇用が増えていない。安倍政権は、なにはともあれ、この2年で雇用状況を大きく改善している。

解散・総選挙というコール・オプション

 「小泉郵政解散」と今回の選挙にはもうひとつ共通点がある。それは、いずれのケースも前回解散時から2年以内の総選挙であった点だ(上の表の括弧内の年月が衆議院の任期開始から解散までの時間である)。

 解散・総選挙というのは、金融商品に例えれば、首相が条件なしに行使できるコール・オプションのようなものだ。つまり、首相は衆議院議員の任期4年のあいだの自らが望む時期に(自分に都合の良い時期に)解散権を行使できるということだ。野党がこれを党利党略であると非難してみても仕方がない。ずっとこういう制度でやっているのだから、野党もこの事情を知っている。

 つまり、「大義名分なき解散」だと政治家が言うのは、この選挙が自分にとって(あるいは自党にとって)不都合であると白状しているだけである。準備が不十分な自分に(自党に)問題があるのだ(なお、私はこの選挙に大義があると考えているが、この点は後述する)。

 ところでコール・オプションの価値は時間の経過とともに低下する。時間が経過するに伴い、行使のタイミングを計る自由度が低下するからだ。

 解散権の行使に失敗して、選挙での大敗を招いた典型例が2009年8月に解散した麻生政権である。麻生氏が2008年9月に福田康夫氏から首相の座を引き継いだときには、前回選挙から既に3年が経過していた。この為、当時、麻生内閣は選挙管理内閣であると言われていたが、麻生氏は就任直後の解散・総選挙を躊躇した。もしも麻生氏が就任直後の解散・総選挙に踏み切っていれば、2009年8月ほどの敗北は喫していなかった可能性が高い。

 2008年8月の完全失業率は4.1%、就業者数は6,403万人である。そこに同年9月、リーマン・ショックが襲いかかった。僅か一年のあいだに、失業率は5.2%へと上昇し、114万人の雇用が失われた。麻生氏は、結局、コール・オプションの価値がほぼセロとなった任期満了直前に衆議院を解散して選挙で大敗を喫したということだ。

 もちろん、安倍首相はこのような過去の選挙事情を知り尽くしている。選挙で勝利できるという目算があればできるだけ早い時期に解散・総選挙に踏み切る、というのはあまりにも当然の選択である。今後、衆議院は2年前後で解散というのが標準形になるのではないだろうか?

 換言すれば、2年を越えてもなかなか解散に踏み切れない政権というのは、その時点で既に政権運営に失敗している、と見ることができる。

民主党というビジネスモデル

 失業率が前回選挙に比べて大きく改善しているのに選挙で大敗したのが、2012年12月の野田・民主党政権である。だが、この民主党政権の3年間で失業率が5.2%から4.4%に改善してはいるとはいっても、就業者数は増えていない。一方、労働力人口が約100万人減少し、非労働力人口がその分増えている。多くの人が就職をあきらめて労働市場から退出したものと考えられる。失業率の改善は当時の雇用状況を表していない。

 だが、それでも経済状況だけで2012年選挙での民主党大敗を説明するのは難しい。この3年の間、景気が全く改善していなかった訳ではない。自民党はもっと酷い状況でも、選挙で大敗はしていない(例えば、2003年11月の選挙)。民主党大敗の原因として、原発事故対応や尖閣諸島を巡る外交の混乱がよく言われるが、これも説得力に乏しい。自民党政権ならもっと上手くできた、という証拠がないからだ。

 民主党大敗の根本的な理由は、自らが作成したマニフェストを破棄して消費税増税にまい進したことにある、と私は思う。今でも不思議でしょうがないのは、民主党が消費税増税を言い出したとき、彼らはその後の選挙をどう戦おうと思っていたのかが皆目分からないことだ。さすがに彼らも消費税増税が政治的に不人気なのは分かっていたので、自民党・公明党と一緒に3党合意という手法を採ったのだろう。つまり、主要3党の合意なら、増税を政治的な争点にしなくて済む、と考えたわけだ。

 だが「消費税増税の重要性は国民には理解できないので主要政党の合意でやる」というエリート主義は傲慢であり、政治的自殺行為である。2012年の選挙で、小選挙区制にもかかわらず、みんなの党や維新の会のようないわゆる第3極が躍進したのは、この3党合意に対する選挙民の反発である、と私は思う(そして今回の選挙で第3極が振るわなかったのは、今ではその主要政策-大胆な金融緩和と増税延期-が安倍・自民党政権の政策と変らないからである)。

 安倍首相は、今回の解散の意義を説明するのに、「私は民主党政権の最大の失敗は、消費税増税の3党合意のときに、解散・総選挙で国民に信を問うことを行わなかった点にあると思う」と述べ、民主党に強烈なパンチを見舞った。税制の変更は国民の生活に直接影響する重要な争点である。税を巡る制度変更を国民に問う解散・総選挙に大義がないわけがない。

 少し技術的なことを付言すれば、問題の消費税法改正法の附則第18条にある「経済状況を勘案の上、施行の停止を含め所要の措置を講ずる」という文言の「所要の措置」とは行政措置ではなく立法措置である。首相が望むだけでは増税延期は実現しない。新たな法律を国会で成立させる必要がある。民主党は解散の直前まで当初予定通りの増税を主張しており、自民党の中にも同じ主張をする議員が多数存在した。増税の延期を確実にする為には、解散・総選挙が不可欠だったのだ。

 重要な政策を国民に諮らず政治エリートで決める、という民主党の政党ビジネスモデルは民主政のもとでは成立しない。

「よりマシな政権」を選択する選挙

 「原発再稼働」、「特定機密保護法」、「集団的自衛権」、これらはもちろん、極めて大きな政治的争点である。そして、これらの争点に関しては、安倍政権の方針に対する反対が賛成を概ね上回っている。

 だが、朝日新聞社が11月29・30日に行った、選挙の際に重視する政策を尋ねた世論調査では、景気・雇用対策が47%で、原発再稼働の15%、集団的自衛権の12%をはるかに上回っている(「選挙で重視する政策「景気雇用」47% 朝日連続調査」12月1日 朝日新聞http://www.asahi.com/articles/ASGCZ4QDYGCZUZPS001.html

 残念なことに、小選挙区制の選挙では個別の政策を、レストランのアラカルト・メニューのように選択することは出来ない。小選挙区制の選挙は政権選択選挙である。意に沿わない点が多々あっても、国民にできるのは「よりマシな政権」を選択することでしかない。そしてほとんどの国民にとって「よりマシな政権」とは、景気を上向かせて雇用を創出できる政権である。原発再稼働や集団的自衛権がいくら重要な争点でも、景気・雇用にくらべれば「贅沢な」争点なのだ。

 市井の人々にとって、エコノミストが論じる経済政策の難しい理屈は理解できないかも知れない。だが、ほとんどの人は健全な判断力を持った常識人である。

 民主党の党首は「アベノミックスで人々の暮らしは苦しくなるばかりである。民主党は分厚い中間層を形成する」と演説する。だが、殆どの人は生活が苦しくなった一番大きな要因は今年4月の消費税増税だということを理解している。分厚い中間層の形成はまことに結構だが、何か上手い方策があるのなら、どうして民主党政権の3年の間に実現してないのかと、いぶかしく思うだろう。

 別の野党の党首は「アベノミックスで恩恵を受けるのはひと握りの金持ちだけだ」と主張する。だが、多くの人は、確かに一番恩恵を受けたのは株高で潤っている金持ちに違いないが、他にも多少の恩恵があることを理解している。6,350万人の就業者のうち約2,000万人が非正規雇用の労働者である。雇用は不安定である。それでも近頃は小売業や外食業界は人手不足なので、ブラックだといわれる職場で深夜労働をしなくても、より条件の良いアルバイト先が見つかることを知っている。

 マス・メディアは「急激な円安で円安倒産が激増している」と報道する。円安で困る業界があるのは確かだろう。だが、工場が海外に移転して正社員でもリストラの対象になり、派遣切りが横行して年越し派遣村ができたのは、アベノミックス以前の円高の時代であったことを、人々は記憶している。

 市井の人々は賢明である。人々は景気と雇用の改善を求めており、アベノミックスはこの点で実績をあげている。それを根拠のないレトリックで批判しても人々は評価しない。景気と雇用を改善できない政党に政権が託されることはない。

 野党は効果が上がっている政策が何かを検証して、いいとこ取りをすべきである。これをやらないと政権が取れないのだから、他にどんなにやりたい政策があっても実現できないことを肝に銘ずるべきである。アベノミックスは標準的な経済政策のパッケージであり、安倍首相の専売特許ではないのだから。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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