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[1]多様性と包摂が企業を強くする

多様な人々が排除されず、それぞれの強みを活かしながら活躍できる組織や社会を目指す

田村太郎 ダイバーシティ研究所代表理事

 人材の多様性を尊重する「ダイバーシティ(Diversity=多様性)」。多様な人を社会や組織に取り込む「インクルージョン(Inclusion=包摂)」。性別、国籍、宗教、障がいの有無といった個々の違いを尊重することは、企業や組織の競争力を高める。取り組まない企業は淘汰される可能性すらある。

ダイバーシティについてのシンポジウムも開かれるようになってきた拡大ダイバーシティについてのシンポジウムも開かれるようになってきた

 D&Iに「2つの誤解」

 近年注目されるダイバーシティだが、日本では「女性の活躍推進」という部分だけを切り取って議論されていることが多い。しかし、ダイバーシティとは、民族や宗教の違いや障がいのあるなし、性的指向など、幅広い人の違いに配慮のある組織や地域のあり方を考えるのが本旨である。

 日本には民族差別はない、宗教上の配慮も必要ないのでダイバーシティは女性の活躍推進だけを取り扱えば良い、という乱暴な意見も耳にするが、日本にも多くの外国人が暮らしているし、多様な宗教も存在する。

 日本企業では、「ダイバーシティ推進室」はあっても、障がい者雇用は別の部署で扱っているというところも多い。だが、人の多様性を包括的に考え、配慮ある行動を組織全体に統合していくことがダイバーシティ推進の本来の姿である。

 日本で女性の活躍推進に特化して広がったのは、日本の職場で働く女性たちが置かれている状況が他国と比べ、あまりに脆弱であることが要因だとも考えられる。

 個々の企業が女性の活躍推進に優先順位を置いてダイバーシティの推進に取り組むこと自体は、もちろん間違いではない。

 ダイバーシティに関するもう一つの誤解は、公平・平等な対応をしていればダイバーシティを推進していることになるというものだ。ダイバーシティとは、様々な違いのある物事が互いに影響を及ぼし合いながら、全体として調和が取れている状態をいう。

 例えば「バイオ・ダイバーシティ(=生物多様性)」が、多様な種が違いを保ちながら調和の取れた自然界を維持することを目指すように、「ヒューマン・ダイバーシティ」も平等性や差別のない対応だけではいけない。互いの違いを強みに変えていこうとする営みでなくてはならない。

 「公平な選考を行った結果、管理職は全員男性でした」では、ダイバーシティではない。従業員比率に沿った構成となるよう、選考基準を見直すべきだ。

 日本より先に人口減少の危機を迎えた欧州では、介護や子育てを家庭の仕事から社会の仕事へ転換することで、女性が働きやすく高齢者も安心できる社会を実現した地域と、そうした政策に積極的でなかった地域とで、社会や経済に大きな差が出ている。

危機的な日本の人口変動

 前者は北欧やフランスなどで、女性の就業率の向上が世帯あたり所得の向上にもつながって合計特殊出生率も1.9まで回復している国もある。一方、後者はイタリア、スペイン、ギリシャなどで、女性が働きにくくて世帯あたり所得が伸びないために合計特殊出生率も1.3程度と低い。

 日本も今後、急速な人口減少と高齢化が進む。例えば、地域防災の担い手だった消防団員の平均年齢は年々上がっており、あと数年で半数以上が40歳以上となる。女性や高齢者、外国人などが積極的に社会に参画しなければ、災害時にも助け合えない。多様な働き方が選択でき、違いに配慮した地域や職場を実現することで、人の多様性を地域の力に変えることが急がれる。

 企業においても同様で、すでに大卒・正社員の男性の採用が難しくなった地方の中小企業などで、積極的に女性や高齢者の雇用に挑戦し、成功している事例がある。本格的な労働力人口の減少を迎えるなか、ダイバーシティに取り組まない企業は生き残りも危ぶまれるかもしれない。

 「多様性」というと「いろいろある」という状態だけをイメージすることもあり、排除されない社会をより強調するために「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を用いることもある。

 多様な人々が排除されることなく、それぞれの強みを活かしながら活躍できる組織や社会を目指すのが、ダイバーシティ推進の方向性だ。

 多様な人に配慮のある社会はコストがかかるのではと一般には考えられがちだが、実際は配慮のない社会から人々が排除される社会の方がコストはかかる。誰もが活躍できる社会を作ることが、社会全体ではメリットが大きい。

 企業にとっても同様で、せっかく採用して研修機会を提供してきた人材が、子育てや介護で離職したり、病気で休職したりする損失は大きい。内外の先進事例から排除しない組織や地域が得るプロフィットを知り、ダイバーシティの推進に一刻も早く取り組んでいただきたい。

本論考はオルタナ34号(2013年9月30日発売)から収録しています

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