『21世紀の資本』 700ページの大著を貫く経済分析、資産格差是正に対する情熱
2015年01月13日
「普通は朝の研究会はガラガラ。でも明日の朝の研究会は満席になるわよ」
ボストンのホテルの前で米国の女性エコノミストから声をかけられた。アメリカ経済学会の年次大会(1月2〜5日)が同地で開かれ、3日午前8時から2時間にわたり、トマ・ピケティ氏を招き『21世紀の資本』(英文はハーバード・ユニバーシティ・プレス、日本語はみすず書房)について議論が交わされたのだ。
「私の英語はフランス語のようなものです」。ピケティ氏は冒頭にそう挨拶して、聴衆を沸かせた。司会はハーバード大学のグレゴリー・マンキュー教授が務めた。ブッシュ政権で米国大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を歴任したほか、ベストセラーの経済学テキストを著している。この研究会の内容は下記で動画配信されている 。
http://events.mediasite.com/Mediasite/Play/b6d6725ea1df49c896fc82465f732e9b1d
ホテル内の会場の一室に用意された600ほどのイスが埋まり、立ち見のほか、座り込み、果てはプレゼンテーションを映すスクリーンの横にもイスが用意された。筆者は冒頭の彼女のアドバイスのおかげで、少し早起きして幸い最前列中央の席を確保することができた。
こんなにも注目を集める『21世紀の資本』は、英文、日本語で700ページもある経済書だ。それが、欧米や日本でベストセラーとなっている。その著作の意義を2点に絞って整理したい。
一つはピケティらのグループが2000年前後から続けている所得とキャピタル・ゲインに関する長期統計の成果である。
もうひとつは国際的な資産課税を提唱していることである。
ポール・クルグマン氏はニューヨークタイムズの書評で「有名ではない」フランスの経済学者と称していたが、2002年、若手経済学者に贈るフランス最優秀若手経済学者賞を受賞している。欧州や長期統計を扱う研究者の間では、すでに有名なエコノミストだと言える。
まず長期統計の成果について考察しよう。ピケティ氏は経済史の研究者だが、日本的な歴史研究者のイメージでは彼の業績を見誤ってしまう。歴史的な文献にあたり、著述するスタイルではなく、国民所得に関する過去の研究蓄積や所得税をはじめとする税務資料や相続資料から200年にわたる所得分布を28カ国にわたり、推計している。対象国によって期間や継続性に違いがあるものの、その成果はホームページで詳細に公開されている。日本からは一橋大学の森口千晶教授が参画している。
http://topincomes.parisschoolofeconomics.eu
国際比較可能な統計整備は、第二次世界大戦の産物でもある。戦争終結に備えて、ブレトンウッズで戦後の経済復興が議論され、国際通貨基金(IMF)や世界銀行を通じて、整備されてきた。国内総生産(GDP)や国民総生産(GNP)統計の歴史は100年にも満たない。ウクライナから米国に移住したサイモン・クズネッツが1934年に、
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