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格差の縮小と経済成長率は関係がない

真に長期的な経済発展の目指すには、消費と貯蓄のバランスが必要

小笠原誠治 経済コラムニスト

<ポイント>
・所得格差を縮小する政策の必要性の根拠として、主に二つが主張されている。一つは、格差の拡大で社会不安が高まるからというもの、もう一つは、所得格差が拡大すると経済成長率が低下するからというものである。

・社会不安を高めないために格差を縮小すべきとの考えは、社会政策上の問題であり国民の判断に委ねるほかない。

・所得格差が拡大すると経済成長率が低下するとの考え方は否定される。今の日本で所得の再分配政策を強化したとしても、国全体の需要は増強されない可能性が大きい。

・格差縮小政策は、言うのは容易いが実行は難しい。大胆な格差縮小政策に国が乗り出そうとするならば、高所得者や企業が海外に逃げ出す恐れがあるからである。

・格差縮小の観点からは消費税などの間接税は好ましくないとされるが、格差の大きい米国で間接税の割合が低く、逆に格差が小さい欧州諸国のなかにも間接税の割合が高い国がある。

・格差拡大の原因が自由貿易に求められる場合があるが、説得力のある議論とは言えない。世界規模で見れば、豊かな国と貧しい国の差は自由貿易によってむしろ縮小する傾向がある。

1. はじめに

 ピケティ氏の来日で、益々ピケティ氏の「21世紀の資本」が読まれ、格差縮小に関心が集まりつつある昨今である。

 なぜ彼の本は人気を博しているのか? いろいろな理由があるだろう。著名な学者の本なので、是非自分でも読んでみたいと思った人も多いはずだ。要するに、流行に遅れたくない、と。或いは、失われた20年と言われるように、日本ではなかなか賃金が上がらない状況が続いた結果、格差が拡大していると感じている人が多く、そのような人々が何とかして格差拡大を止めて欲しいと願うからかもしれない。つまり、ピケティ氏の本にその答えを求めたいということだ。

 では、格差を縮小する政策は本当に有効なのだろうか? というのも、現実の世界に目を向ければ、ピケティ氏の主張とは反対の方向に税制度が改められてきた経緯があるからだ。累進税率は簡素化されてきたし、直接税の依存度も下がってきているのだ。

 なぜ格差縮小の政策は、一部で支持する声があるものの、大きなうねりとはなり得ないのか?

 そこで、今回は、格差縮小の政策がどれほど有効であるかを検証してみたい。最初に断っておくが、今回の私の論評はピケティ氏の主張に対する批判ではなく、格差縮小を主張する者に対するものであることに注意して欲しい。

2. 格差縮小政策の根拠

 なぜ格差縮小政策を推す声が存在するのか?

 それは現実に大きな格差が存在しているからであろう。格差が小さければ、そのような声が起きるはずがない。したがって、格差が大きくなればなるほど、格差縮小を求める声が大きくなるであろう。

 では、大きな格差が存在すると、なぜ問題になるのか?

 私は、それには二つの理由があると考える。一つは、中南米などで時折みられるように、余りにも一部の富裕層に富が集中し過ぎると社会の安定性が脅かされるからである。

 歴史を紐解けば、日本でも過去に米騒動のようなことが起きたことに気が付く。人間生存することが危うくなれば、理屈より生理的な欲求の方が勝ってしまう。そこで、国家の健全な発展のためには極端な貧富の差は可能な限り避ける必要があるという認識が広まる。少なくても、人々の生存が危うくなるような状態は放置されるべきではなく、だから憲法25条では最低限度の生活を営む権利を国民に認めているのだ。

 ただし、いくら国民に最低限度の生活を営む権利があるからといって、

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