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農協改革をどう見るか(上)

農協が守ろうとしているのは、農業や組合員である農家の利益より農協組織の利益

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

なぜ農業が衰退するのに、農協は発展するのか?

 食管制度の時代、農協は激しい米価引上げ闘争を主導した。食管制度廃止後は、生産・供給を減少させる減反によって、高米価を維持している。高米価によって、コストの高い、零細で非効率な米の兼業農家や高齢農家が、農業を継続した。

拡大自民党本部での会談後、報道陣の質問に答える万歳章・全中会長=2月9日午後、東京・永田町

 零細農家が農地を出してこないので、農業で生計を立てている農家らしい農家に農地は集積せず、規模拡大は進まなかった。農家の7割が米を作っているのに、農業の2割の生産しかしていないことは、いかに米が非効率な産業となってしまったかを示している。これこそが、日本農業の最大の問題である。

 しかし、零細な農家を多数温存できたことは、農協の政治力の維持につながった。

 農協は、農業関連業務だけでなく、銀行事業も生保も損保も、ありとあらゆる事業を行うことのできる、日本で唯一の法人である。高米価とこの農協の特権がうまくマッチして、農協は発展した。高米価で滞留した兼業農家や高齢農家は、兼業収入や年金収入だけでなく、農地を転用して得た年間数兆円に及ぶ利益も、JA農協バンクに預金してくれた。農協バンクの貯金残高は約90兆円まで拡大し、我が国第二を争うメガバンクとなった。

 しかし、農業は衰退しているので、そのうち1~2%しか農業には融資されない。農家でなくても、地域の人をだれにもなれる准組合員に勧誘することで、預金の3割を住宅ローンなどとして貸しだした。残りの7割は農林中金がウォールストリートで運用している。米農業を弱体化し、脱農化することで、農協は発展した。

圧力団体としての特殊性

 農協の政治的・経済的利益が、高い米価とリンクしている。EUにもアメリカにも農業のために政治活動を行う団体はあるが、その団体が経済活動も行っているのは、日本のJA農協をおいて、他にない。日本でも、医師会は、それ自体が事業を行っているわけではない。医師会が守ろうとしているのは医者の利益である。

 ところが、農協はそれ自体多くの事業を行っている企業体である。農協が守ろうとしているのは、農業や組合員である農家の利益というより、農協自体の組織の利益である。農協発展の基礎が、高米価なので、関税がなくなり、減反という高価格カルテルが存続できなくなることは、農協の存立基盤を奪いかねない悪夢である。だから、農協は、1千万人もの署名を集め、一大TPP反対運動を展開したのだ。

 TPPをアベノミクスの第三の矢の最重要事項と位置づける安倍政権にとって、農協、特にJA全中の跳梁跋扈は、許しがたいものに映ったのだろう。昨年5月に、唐突に農協改革が浮上したことは、 ・・・ログインして読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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