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英BBCと政府のバトルが始まる(上)

ネット時代にテレビ・ライセンス料(受信料)制度に正統性はあるのか

小林恭子 在英ジャーナリスト

 5月上旬、英国では5年ぶりの総選挙が行われる。新政権発足直後、英国放送協会(BBC)の将来についての国民的な議論が始まる。

ロンドンにあるBBC本部

 BBCの存立とその業務を規定する基本法規は国王の「特許状」(または「王立憲章」)と、BBCと担当大臣との間で交わされる「合意書」によるが、後者は随時更新されるのに対し、王立憲章は10年毎に更新される。

 現在の王立憲章の終了は2016年末だ。総選挙が終わるや否や、できうる限り活動を拡大させたいBBCと「第四の権力」の巨大化を阻止しようとする政治家やライバルメディア側との間で、丁々発止のバトルが繰り広げられる見込みだ。

 英ガーディアンのコラムニストでメディアの分析家として知られるロイ・グリーンスレード氏は、自著『プレス・ギャング』(未訳)の中で、メディアと政治権力(政府・政治家・議会)との綱引きの構図は英国の「戦後の言論界の特色の1つ」と述べている。

 本稿では、どんな戦いぶりが予想され、争点は何かなどを紹介したい。

BBCをめぐる現状

 その前にBBCの現状をざっと見てみよう。

 創業は1920年代。最新の年次報告書(2013-14年)によれば、従業員は約2万人だ。英国の成人の96%がBBCのテレビ、ラジオ、オンラインのコンテンツのいずれかに毎週接している。BBCのニュースサイトは昨年の年頭時点で2500万人の月間ユニークユーザーを記録。見逃し番組の再視聴サービス「BBC iPlayer(アイプレイヤー)」の利用数(テレビ及びラジオ番組の視聴リクエスト数)は2014年で35億回(前年31億回)に達した。

 収入の内訳は、視聴家庭から徴収するテレビ・ラインス料(NHKの受信料に当たる)が37億2600万ポンド(約6767億円)。これで国内の活動をまかなう。このほかに商業活動(出版、販売など)による収入と政府交付金(国際放送の「ワールドサービス」運営用)として入ってくる金額が13億4000万ポンド。合計すると50億660万ポンド(約9200億円)に上る。有料テレビ最大手BスカイB(76億1700万ポンド=約1兆3800万円)よりは少ないが、民放最大手ITV(25億9600万ポンド=約4700億円、14年末)を大きく引き離す規模だ。

 他のメディアがうらやむのがBBCが受け取るテレビ・ライセンス料収入の大きさだ。BBCにとってはライセンス料制度の維持は安定した経営、番組作りのために譲れない。もし希望者による有料契約制(サブスクリプション制)を導入すれば、受け取る資金の額が大幅に下がるという見方が強い。創立時から導入されたこともあって、ライセンス料の廃止・ほかの制度への移行は、BBCの存在の根幹に関わる挑戦として受け止められる。

 戦いの「序」とも言うべき動きがあったのは昨年11月だ。連立与党を構成する保守党のアンドリュー・ブリッジェン議員は「BBCのテレビ・ライセンス料を廃止し、視聴を希望する人がお金を払うサブスクリプション制に変えるべき」と主張する公開書簡を文化・メディア・スポーツ省大臣に送った。議員によれば、

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