「ミッシングリンク解消」「医療へのアクセス確保」は方便、「細切れ方式」は不合理だ
2015年04月27日
「ミッシングリンク解消」や「医療へのアクセス確保」などを理由に、国は2005年の旧道路関係4公団民営化以後も、各地で高速道路計画を続けている。山本太郎参議院議員が今月提出した二つの質問主意書の政府答弁で、こうした理由は道路ありきの方便である疑いが高まった。
採算の合う高速道路は民営化会社が、合わない道路は限定して国が新直轄方式(*1)で建設するというのが民営化当初の考え方だった。後者の「新直轄方式」は高速道路行政改革の「抜け穴」だが、『高速道路、法的根拠なき整備がなぜ続く』(WEBRONZA、2015年3月8日)における取材で、旧公団時代から続く「薄皮まんじゅう方式」という「抜け穴」も明らかになった。
これに対し、採算の合う区間を中日本高速道路株式会社が、採算の合わない区間を国が新直轄で建設する「細切れ方式」で建設が進められている「中部横断自動車道」のような高速道路もある。
中部横断自動車道(静岡県~山梨県~長野県)は1987年に「高規格幹線道路」に、1997年に「基本計画」に位置づけられ高速道路である。その後、区間ごとに「整備計画」に格上げされ、現在までに「増穂―双葉区間」(山梨県)を国が新直轄で、「佐久南―佐久小諸区間」(長野県)を中日本高速道路が開通させた。残り区間も細切れで「整備計画」に格上げされて整備中であり、唯一、ミッシングリンク(未整備の区間)として残ったのが、長坂(山梨県)―八千穂(長野県)区間の34キロメートルである。
この区間は、北に八ヶ岳、南西に南アルプス、南東に富士山と、豊かな山岳風景を分断する路線となる。そこで、八ヶ岳南麓に広がる清里高原(北杜市)など田舎暮らしを夢見て移住したり、別荘を入手した人々が、予定路線とほぼ並行に走る国道141号の整備拡充で高速道路を代替すべきだと、建設に反対の声を上げた。
2010年には、民主党政権下で国土交通省が「計画段階評価」なる事業評価手法を導入した。整備計画に格上げされたときに行われる「新規事業採択時評価」よりも早期に自治体や第三者委員会に意見を聞く手続である。
長坂~八千穂区間はそのテストケースとなった(*2)。その一貫で、2010年11月から2014年夏まで国土交通省関東地方整備局に設置した「関東地方小委員会」(*3)で議論が行われたが、国土交通省が強調してきた建設理由の一つが「医療へのアクセス」だった。
初会合では、関東地方整備局の路政課長が「南佐久地域は高齢化が進んでおりまして、心疾患による死亡者が全国平均の1・4倍というような状況」であるから高速道路が必要だと説明した。複数の委員たちから病院設置やドクターヘリなどの代替案に言及があったが、うやむやな回答でお茶を濁された。
また、国土交通省の本省が2014年7月に開いた社会資本整備審議会道路分科会(*4)でも、道路局長が、高速道路建設の必要性を強調する例として中部横断自動車道(長坂―八千穂区間)を持ち出し、長野県東部で重篤な疾患や多発外傷に対応できる「第三次救急医療施設」は佐久市にある佐久総合病院しかないと説いた(下図)。
山本太郎参議院議員による「高速道路新設の理由に使われる「第三次救急医療機関」に関する質問主意書」(*5)は、「医療へのアクセスの確保は喫緊の課題」だが、それを病院の創設で実現するか、高速道路新設で実現するについては、国民主権で決定されるべき事柄であり、政府は今後、地域住民による合意形成をどのような参加制度により確保していくのかを尋ねたものだ。政府答弁で明らかになった要点は次の通りである。
1.現制度上は、厚生労働省が所管する医療法に基づき、都道府県が策定する医療計画などで審議会や市町村の意見を聴く。
2.国土交通省は、計画段階評価で地域の意見等を踏まえる。
3.国土交通省は、山梨県と長野県の保健福祉事務所からのヒアリングの結果、「財源不足及び医師不足のため、新たな病院の設置は困難」と聞いている。
4.国土交通省と厚生労働省の間では、中部横断自動車道建設の必要性の根拠として挙げられている「第3次救急医療施設」へのアクセスについて協議や相談を行ったことがない。
つまり、医療行政と道路行政は、個々に縦割り行政の中で意思決定を行っており、
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