分業の発達で労働者が人間的に限りなく摩滅してしまう〈朝日カル連携講座〉
2015年06月26日
WEBRONZAは朝日カルチャーセンターの協力を得て、同センターでの連携講座にご契約者のみなさんを招待しています。それぞれの連携講座の内容は連載記事としてWEBRONZAでご紹介します。今回は慶応大学の坂本達哉教授による「民主主義か資本主義か」です。フランスの経済学者ピケティ氏が『21世紀の資本』で現代の資本主義社会における格差問題を分析し、注目を集めました。しかし、この問題は、古くて新しいテーマだと坂本教授は解説します。ルソーからロールズまで、6人の思想家の考えをたどりながら、改めて問題の本質を見つめます。2015年3月24日、東京・新宿の朝日カルチャーセンター新宿教室での講座です。その2回目をお届けします。
坂本達哉(さかもと・たつや)1955年東京生まれ。1979年慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科をへて、1989年慶應義塾大学経済学部助教授。1996年同教授。博士(経済学)。主要著作に『ヒュームの文明社会』(創文社、1995年)、『ヒューム希望の懐疑主義』(慶應義塾大学出版会、2011年)、『社会思想の歴史』(名古屋大学出版会、2014年)がある。
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ルソーに続いてアダム・スミスが登場してきます。スミスとルソーはほとんど同時代の人物です。11歳違いですね。日本流にいえば1回りぐらいの年の差で、ほとんど同世代です。二人は会ったことはありませんが、スミスはルソーの『人間不平等起源論』という著作を若いときに読み、非常な衝撃を受けます。
スミスはスコットランド人です。スコットランドは1707年にイングランドに併合されました。それ以来、まさに文明社会の道をまっしぐらに歩んでいたんですね。昨年、2014年9月に独立の住民投票がスコットランドで行われましたが、僅差で否決されました。
併合後のスコットランドは、ちょうど日本の明治維新と似ています。追い付き追い越せです。日本は西欧列強に追い付け追い越せ。スコットランドはイングランドに追い付け追い越せという状態です。現実は貧しいのですが、スコットランドは非常に教育水準が高かった。これも日本に似ています。イングランドにはオックスフォード、ケンブリッジ、二つの大学しかなかったんですけど、当時のスコットランドはもうすでに四つの大学がありました。
もちろん、まだ当時は民主主義ではありませんが、市場経済を原則にして議会制の社会です。選挙権はごく一部の人しかありませんでしたが、議会政治が実現していました。そういう文明社会の基本的な柱については誰も疑ってみなかったんです。そこにいわゆるルソーの思想が爆弾のように炸裂したということです。
ジョン・スチュアート・ミルは後に、まさにその爆弾に例えています。人々が文明社会の発展を喜び、啓蒙思想に浮かれている、その時にルソーの思想の爆弾が投げ込まれた。いわゆるテロリズムのように投げ込まれて炸裂したということを言っています。スミスにとっても同様でした。まさにそういう衝撃で、ルソーの思想を受け止めたのです。
つまり、ルソーは私有財産が諸悪の根源だと言ったのです。それは必然的に貧富の格差を生み出す。また政治的な支配、被支配を生み出すのだと。このメッセージをスミスはしっかり受け止めました。ただ、スミスはルソーのメッセージを受け止めはしましたが、決して鵜呑みにはしませんでした。むしろ逆で、ルソーの問題提起をどうやって押し返すか、根本的に反論するかというのが、むしろ彼の一生の課題になっていくわけです。
そのためには当時、英国やフランスにいたヴォルテールとかモンテスキューら、ほかの啓蒙思想家のような形で、文明社会を自由な社会ということで称賛しているだけでは不十分であるということに深く思いを致すわけです。結局はここから彼が、経済学の父となる『国富論』という著作を生み出していくことになります。この『国富論』という著作によって彼は経済学の父と呼ばれるようになる。「資本主義思想の父」と私は言っていますが。そして、ルソーはまさに民主主義思想の父です。
ルソーの民主主義が我々が考える民主主義と違うように、スミスの言っている資本主義も我々が考えるような資本主義とは違います。これを見てください。まず2番目ですけど、貯蓄しようとする人間の気持ちは、自分の暮らしをいっそうよくしようとする願いがあって、一般に穏やかで冷静だけど、一生続くとしています。
人間というのは生まれたその瞬間から、いわばみんなのビジネスマンになるような素質を持って、生まれてきていると言っているわけなんですね。蓄積というのは貯蓄です。これは貯蓄とか蓄積はお金持ちだけの話と思われるかもしれませんが、
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