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[3]ミルとマルクス、そしてケインズと格差

19世紀から20世紀の思想家が考察した資本主義と民主主義〈朝日カル連携講座〉

坂本達哉

 WEBRONZAは朝日カルチャーセンターの協力を得て、同センターでの連携講座にご契約者のみなさんを招待しています。それぞれの連携講座の内容は連載記事としてWEBRONZAでご紹介します。今回は慶応大学の坂本達哉教授による「民主主義か資本主義か」です。フランスの経済学者ピケティ氏が『21世紀の資本』で現代の資本主義社会における格差問題を分析し、注目を集めました。しかし、この問題は、古くて新しいテーマだと坂本教授は解説します。ルソーからロールズまで、6人の思想家の考えをたどりながら、改めて問題の本質を見つめます。2015年3月24日、東京・新宿の朝日カルチャーセンター新宿教室での講座です。その3回目をお届けします。

坂本達哉(さかもと・たつや)1955年東京生まれ。1979年慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科をへて、1989年慶應義塾大学経済学部助教授。1996年同教授。博士(経済学)。主要著作に『ヒュームの文明社会』(創文社、1995年)、『ヒューム希望の懐疑主義』(慶應義塾大学出版会、2011年)、『社会思想の歴史』(名古屋大学出版会、2014年)がある。

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中間層の台頭した19世紀

 さて次は、マルクスとミルです。ルソーやスミスからはほぼ100年近くたった時代の思想家です。強調しておきたいのは、この時代は現代の我々の時代にもう極めて近づいてきているということですね。つまり資本主義といってももうスミスのような産業革命以前の資本主義ではない、産業革命は終わって、貧富の格差も出尽くすだけ出尽くして、いろいろな問題も明らかになって、それに対するさまざまな対応がすでに行われているということです。

拡大坂本達哉教授

 つまりそれが資本主義の変化と民主主義の確立ということで、まず資本主義自体はいわゆる製造業中心からサービス産業、ホワイトカラーというものが増大してきています。

 もちろん、現代とは比較にはなりませんが、今日の資本主義と近い要素は徐々に出始めていました。スミスが主張した公教育制度はイギリス、フランスなどでは19世紀の後半にほぼ整って、無償で労働者階級の子弟が教育を受けられるようになりました。それから大学、高等教育まで、一部の労働者は意欲と能力さえあれば行けるという体制がだんだんとつくられてきます。

 一番重要なのは政治的民主化ですね。選挙権が拡大して、スミスの時代にはまったく選挙権のなかった中産層、ミドルクラス、資本家階級が台頭してきます。スミスの時代には資本家階級もまったく選挙権はありません。もちろん労働者階級もないです。この中産階級と労働者階級に選挙権が行き渡るのはだいたい19世紀の1860年代です。

 しかし、女性は全階層で選挙権がありませんでした。これが実現するのは、なんと20世紀に入ってからです。1920年代のイギリスです。日本は戦後の1945年に女性に選挙権が与えられますが、それと20年も違いません。女性の参政権というのはそれだけ長い道のりであるということではありますね。

 とにかく、男性の中産階級と労働者階級に選挙権が行き渡った結果として、結局、労働者階級は1対500の格差などとスミスが言ってはいましたが、着実に生活水準が向上して豊かになります。いわゆる分業の弊害というよりも、むしろサービス労働、ホワイトカラーですから、その弊害もだんだん和らげられ、公教育もあり、選挙権もありということで、いわゆる大衆社会というものが出現してきます。

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 ジョン・スチュアート・ミルというのは、マルクスより12才年上です。この大衆社会の出現を最初に明確に指摘しました。私の『社会思想の歴史』では、マルクスの後にミルを取り上げています。普通の教科書は、ミル、マルクスの順番なので、専門家の仲間からは、変わっていると言われたこともあります。

マルクスより現代的なミル

 ミルというのは、ブルジョア経済学の最後と言われています。マルクスがそう言っていたのです。堕落した経済学者だとか折衷主義者だとか、あるいは、大して深みがないとかいろいろなことを言われていたのですが、そういう指摘は間違いだと私は思っています。ミルというのは非常に偉大な思想家で、マルクスより実は現代的なのです。だから、私の本ではマルクスの後にミルが来るのです。それは、まさにこういう大衆社会の出現についてミルは明確に述べている。観察しているからなのですね。

 ただ、そのミルに行く前にマルクスの思想をみていきましょう。マルクスの批判というのも大変重要であることは間違いありません。時間が限られていますので詳しくはお話しできませんが、マルクスはルソーに影響を受けています。ルソーの『社会契約論』を引用したりしています。

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 いわゆる人権のどれひとつとして利己的な人間、私利私欲に閉じこもっている人間の権利を超えるものはないと言っています。つまり私有財産の自由、営業の自由、思想・言論・出版の自由。これは全部エゴイズムであると。

 どこにも他人を助ける自由とか貧しい人を助ける自由とかそんなことは近代的な憲法には書かれていないんですね。それは余裕のある人が ・・・ログインして読む
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筆者

坂本達哉

坂本達哉(さかもと・たつや) 

1955年東京生まれ。1979年慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科をへて、1989年慶應義塾大学経済学部助教授。1996年同教授。博士(経済学)。主要著作に『ヒュームの文明社会』(創文社、1995年)、『ヒューム希望の懐疑主義』(慶應義塾大学出版会、2011年)、『社会思想の歴史』(名古屋大学出版会、2014年)がある。