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ギリシャ危機、非ユーロ圏の英国から見えるもの

ギリシャの困窮事態がEU、ユーロ圏構想の失敗・失態とする論考も

小林恭子 在英ジャーナリスト

 ギリシャへのEUなどからの金融支援が6月30日に期限切れを迎え、国際通貨基金(IMF)への債務もこの日までに返済できなかったことで、ギリシャは事実上の「債務不履行(デフォルト)」状態となった。

 いよいよ、ギリシャがユーロ圏からの離脱(「Greece」と「Exit」を組み合わせて「Grexit=グレジット」)の可能性が色濃くなってきた。欧州連合(EU)からの脱退すら、一部では取りざたされるようになった。

拡大

 EUの発端は、第2次世界大戦後に発足した欧州石炭鉄鋼共同体(1952年)で、これが経済共同体として拡大・発展してきた。加盟後に脱退した国はこれまでになく、1999年に導入された域内単一通貨ユーロに参加した国で後に抜けた国もない。ギリシャのユーロ離脱は、もし現実化すれば前代未聞の出来事になる。

 欧州中央銀行(ECB)、IMF、ギリシャ国家統計局からの数字を基にした、ロイターの計算によると、ギリシャの負債総額は約3200億ユーロ、この中でEU 、ECB 、IMFなどからの負債額は約2400億ユーロに達している。債務の対GDP率は177%、2010年以降のGDP縮小率は25%、失業率は26%となっている。

 ギリシャの財政赤字問題が国際的に明るみに出たのが2009年。パパンドレウ政権(当時)が前政権による財政赤字の隠ぺいを暴露した。従来はGDPの4%ほどとされていた赤字は実は13%ほどになっていた。財政赤字をGDPの3%以内に抑制するというユーロ圏の財政規律も守ったことがほとんどなかったことが判明した。

ギリシャと英国の関係とは

 英仏海峡を隔てて欧州大陸を外から眺める格好の英国は、1973年、EUの前身、欧州諸共同体(EC)に加盟した。ユーロ圏には入らず、自国通貨ポンドを維持しており、危機に見舞われたギリシャに直接の財政支援は行っていない。これまでの支援はIMFの一員であることで間接的に提供した分だけだ。

 英シンクタンク「オープンヨーロッパ」によれば、IMFによる378億ポンドの支援金の中で英国負担分は1億7200万ポンド。ギリシャが債務の返済を開始した場合、IMFは最優先されると見られているため、「この分の返済が行われずに損をしたという事態にはならないだろう」(オープンヨーロッパ関係者、BBCニュース、6月17日付)。

 英国の輸出の半分はEU域内となるが、ギリシャへの輸出はその1.2%(英国家統計局調べ)。EUを含めての輸出全体ではギリシャ向けは0.55%となる。

 英国にとってギリシャはもっとも人気が高い休暇先の1つとして、見近な存在だ。昨年は173万人が英国からギリシャを訪れた。別荘を持っている人もおり、英国人にとっては、「一度は自分が、あるいは友人、親戚が訪れたことがある国」がギリシャである。

 BBCがオープンヨーロッパ、ECB 、国際決済銀行(BIS)、 IMFの資料をもとにした調査によると、ドイツはギリシャの最大の債権国だ。EUによる支援策、国内の銀行による支援などを合わせると、682億ユーロに達する。

 次に続くのがフランス(438億ユーロ)、イタリア(384億ユーロ)、スペイン(250億ユーロ)、IMF(214億ユーロ)、ECB(181ユーロ) オランダ(134億ユーロ)、米国(113億ユーロ)、英国(108億ユーロ)、ベルギー(75億ユーロ)、オーストリア(59億ユーロ)、フィンランド(37億ユーロ)の順である。

 ドイツ、フランス、イタリアの金額が突出する一方で、経済規模の割には米国や英国の関与率が低いことが分かる。

 このような英国は、今回のギリシャ危機をどのように見ているのだろうか?

英国でも詳細な報道、続く

 財政粉飾が発覚してから、英メディアは詳細にギリシャの債務状況を報じてきた。ポンドへの影響の懸念やEUの加盟国としてギリシャ救済のために負担を強いられる可能性があったからだ。

 また、国内ではEUに対する懐疑感情が強いため、EUやユーロ圏経済の失態は人々の興味を引く面もあった。

 主要テレビ局のギリシャ報道には、ギリシャ国民の生活困窮振りを伝える現地報道とともに、

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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