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派遣労働者数は全労働者の「2%」。それが何か?

その一人一人に人生と家族と生活がある

林美子 朝日新聞編集委員

 しつこいようだが、労働者派遣法の改正問題で気になることがある。

 「派遣労働者が雇用労働者に占める割合は2%」という指摘を見聞きすることだ。わずかな割合の労働者のために何を大騒ぎしているのかというニュアンスで語られることが多い。でもそれがもし、あなた自身のことだったら? あなたのパートナーや息子や娘だったら?

 5月29日の衆院厚生労働委員会で、こんなやりとりがあった。民主党の山井議員が「派遣の上限を撤廃したドイツでは、5年間で派遣労働者が2倍に増えた」と指摘した。

民主党と共産党が審議拒否した厚生労働委員会で、水を飲む塩崎恭久厚労相=2015年6月10日正午、西畑志朗撮影

 塩崎厚労相は「ご参考までに申し上げると、今の日本の派遣労働者の雇用者全体に占める割合は2.3%です。ドイツが増えたといっても就業者ベースで2.2%です」と答弁した(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009718920150529018.htm)。

 塩崎氏の指摘の通り、2014年の労働力調査によると、派遣社員の人数は119万人。雇用者の全体数は5240万人だ。

 昨年、話を聞いた労働政策の研究者も「派遣労働者は全雇用者の2%、非正規労働者全体が全雇用者に占める割合は37%だ。派遣のことばかり注目されているが、非正規全体の問題に目を向けて、その中で派遣の問題も解決していくべきだ」と語っていた。

 非正規の問題全体の解決が必要なのはその通りだ。だから、派遣労働は小さな問題なのだろうか。決してそうではない。

 まず、割合が小さいといっても119万人だ。大分県の人口規模とほぼ匹敵する。当然のことだか、その一人一人に人生と家族と生活がある。100万人以上の人たちに影響する政策変更が、小さなことなはずはない。

 2%にとどまっているのは、労働者派遣は臨時的・一時的を原則とし、正社員の仕事を派遣労働者で代替させないという方針のもとで枠をはめてきたからだ。今回の改正案ではその枠がなくなる。

 派遣先企業は、派遣会社にマージンを払っても、派遣の方が正社員を雇うよりコストが低かったり、雇用責任を負わなくて済んだりするから派遣労働者を使っている。欧州のように同一価値労働同一賃金の原則があれば、マージンを上乗せすると派遣の方が高くつき、企業は派遣を利用しにくくなるだろう。

 日本は逆で、派遣労働者の大きな不満の一つに賃金の低さがある。女性や非正規労働者たちが長年、同一価値労働同一賃金を要求しているが、使用者側はがんとして認めない。今回、衆院を通過した「同一労働・同一賃金推進法案」も骨抜きされている。だとしたら、現在かろうじてある枠を取り払えば派遣労働者が増える可能性は高い。

 ではなぜ、派遣という働き方に一定の制限があった方がいいと考えるのか。それは、派遣労働には、他の非正規労働にはない「間接雇用」という特徴があるためだ。

 直接雇用の労働者は、賃金など労働条件や職場環境に不満があれば、上司や会社に直接言うことができる(実際に言えるかどうかはまた別の問題)。その会社の労働組合がパートなど非正社員の加入を認めている場合もある。組合員であれば、労組を通じて会社に主張を伝えることもできる。

 派遣労働者は、仕事をしている会社ではなく、派遣会社に雇われている。労働条件や職場環境に疑問や不満があっても、職場の上司や経営者に言うことはできない。派遣会社の営業担当者に伝えることになるが、

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