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ユーロ圏離脱でギリシャは蘇り、EUは政治分裂?

ピケティやクルーグマンが支持したギリシャ国民投票「ノー」の行方

吉松崇 経済金融アナリスト

借りた側が悪いのか、貸した側が悪いのか

拡大国会議事堂前でEUの旗を掲げる男性ら=2015年7月9日、アテネ

 2002年にユーロ圏への加盟が認められて以降、ギリシャ政府は「強い通貨」ユーロの低金利を利用して大量の借入を行い、バラマキ財政を行った。ところが、2009年秋の政権交代で、それまでのギリシャ政府の粉飾財政が暴露され、財政赤字の対名目GDP比率が4%から12.5%に書き換えられた。金融市場がパニックに陥ったのは言うまでもない。これがギリシャ危機の発端である。

 もちろん、低金利を利用して大量の借入を行ったギリシャ政府も愚かであるが、そもそも低金利で借りられたということは貸した銀行があるということだ。貸付を行ったのは主にドイツとフランスの銀行である。「低金利」とはいっても、ドイツやフランスと比べてインフレ率の高いギリシャでは名目金利が相対的に高くなる。だから、ドイツやフランスの銀行は自国で資金調達して、これをギリシャに貸し付けると大きな利ザヤが取れたのだ。しかも共通通貨ユーロを使うので、為替リスクがない。

 良く考えれば、通貨がドラクマからユーロに替わっただけでギリシャのファンダメンタルズが変わったわけではない。だから、それだけで大量に低金利の貸出ができる理由がないのだが、当時のドイツやフランスの銀行はなぜかそのようには考えなかった。既に2004年の段階で、ギリシャがEUに対し財政赤字の額を偽って提出していたことが明らかになっていたのにもかかわらず、である。貸した銀行も愚かである。

 こういう訳だから、借り手にも貸し手にも危機を招いた責任があると考えるのが妥当だろう。

IMFの救済策が機能しない

 2010年の5月には、ギリシャはもはや市場で国債の借り換えが出来ないところまで追い込まれた。デフォルト寸前である。ここで、IMF、 EUそして欧州中央銀行(ECB)(この三者を“トロイカ”という)による救済策が発表され、総額1,100億ユーロのローンがギリシャに供与された。ところが、このローンの殆どはギリシャ国債の償還に充てられた。つまり、これはギリシャの救済というよりは、ギリシャ国債を大量に持っていたドイツ、フランスの銀行の救済というほうが正しい。貸し手責任は問われなかったのだ。

 一方、ギリシャに対しては、厳しい緊縮財政が求められた。だが、厳しい緊縮財政でギリシャの名目GDPが大きく落ち込み(2009年の2,374億ユーロから2011年の2,077億ユーロへと17%減少)債務残高は殆ど変わらないので、政府債務の名目GDPに対する比率は2009年の130%から2011年には170%にまで上昇した。因みに、2014年の名目GDPは1,790億ユーロと5年間で25%の減少である。この間、失業率は2009年の8.4%から2014年には25%にまで上昇し、若年層(25歳以下)の失業率は50%を超えている。つまり、緊縮財政は成果を挙げなかったばかりか、明らかに事態を悪化させている。

 対外債務を抱えた国が危機に陥った場合のIMFの救済策には決まったパターンがある。一方で、国内需要を落とすために緊縮財政を求めるのだが、もう一方で輸出の拡大と輸入の縮小を実現するために、金融緩和による為替の切り下げを求める。対外債務の利払い・返済の為には経常収支の黒字化が必須なので、これが基本的なパターンである。ところが、ギリシャは通貨ユーロを導入しているので、為替の切り下げが使えない。これがギリシャの救済策が上手くいかない理由の一つである。

 もう一つは、IMFが債務危機国に介入するときには、通常、民間金融機関の債権に対して債権の一部放棄を求める。危機に陥った国に持続不能な債務の利払いと返済を求めても、早晩、再び危機に陥ることが明らかだからだ。ところが、既に述べた通り、貸し手がトロイカの融資で救済され、ギリシャの対外債務は減少しなかったのだ。これではIMFの救済策が機能するわけがない。

国民投票の「ノー」を支持した著名経済学者

 今年1月の選挙で「反緊縮」を掲げた急進左派連合が勝利してチプラス政権が誕生した。その後、チプラス政権はギリシャのデフォルト(債務不履行)を避けるための支援条件を巡るトロイカとの長い交渉の末に、6月27日、国民投票を行うと表明した。

 トロイカは引続き緊縮財政を求めている。だが、そもそもチプラス政権の看板は「反緊縮」なのだから、チプラス氏がデフォルトの瀬戸際で国民に判断を求めるのは当然といえば当然である。それなしにトロイカの条件を受け入れると、1月の選挙結果は何だったのか、ということになる。

 6月27日から7月5日の国民投票の実施までに、実に様々な動きがあった。EUの首脳の中には「国民投票の『ノー』は、グレクジット(ギリシャのユーロ圏離脱)を意味する」と公言する人が出てくるし、一方、 ・・・ログインして読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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