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このままのTPPでは農業の合理化は望めず

消費者が国際価格よりも高い価格を払っている現状は改善されない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 TPP交渉によって、“農産物の輸入自由化が進めば、国内農業はコスト削減による合理化をせざるをえない、農協改革や農業への株式会社の参入はそのために必要なのだ"と、マスコミでは主張されることがある。

 しかし、これとは違う方向で事態は進んでいる。

拡大TPP交渉の日米実務者協議を前に握手する大江博首席交渉官代理(右)と米通商代表部のカトラー次席代表代行=2015年7月9日午前10時、東京・霞が関の外務省、代表撮影

 第一に、TPP交渉では、日本農業にほとんど影響のないようにしようと、日本政府は交渉しており、実際にもそのような形で合意されるようだ。

 牛肉については、38.5%の現行関税を15年かけて9%に引き下げるという。しかし、これによる影響はほとんどない。91年に輸入数量制限を廃止して関税のみの制度に移行したが、このときの関税は70%だった。現在の関税はその約半分に下がっているが、和牛の生産は減少するどころか大幅に増えている(2003年度137千トン⇒2012年度171千トン)。

 輸入牛肉と競合するのは、メスのホルスタイン(乳用種)が出産するオス子牛に、アメリカ産の輸入飼料を与えて大きくした牛である。これはスーパーでは“国産牛"という表示で販売されている。自由化後、牛肉業界は、メスのホルスタインに、和牛の精液を人工授精して肉質の高い交雑種を出産させたり、和牛の受精卵を子宮内に挿入して和牛自体を出産させたりする対応を行ってきた。

 もちろん、未だに乳用種のオス牛の生産は国内生産量の3分の1を占めるが、単価が低いので金額的には大きなものではなく、5,200億円の牛肉生産額のうち700億円程度にすぎない。関税削減で価格が下がっても現在の肉用子牛補給金制度で十分に対応できる。

 豚肉については15年かけて、

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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