イノベーションを拒む模倣文化と二つの制度欠陥
2015年09月04日
中国経済が急減速している。
その一因が製造業の輸出競争力の低下だ。「賃金上昇」や「人民元高」が原因にあげられるが、それだけではない。
中国は1978年の改革開放以来、多くの計画を作って技術の高度化を図ってきた。今年春には、ITと製造業を一体化させる「中国製造2025」計画を打ち出した(表参照)。
製造業で改革は進んでいるのだろうか。
日本の自動車メーカーを退社し、現在は中国自動車メーカーの技術顧問をしているAさんに研究開発の現状を聞いた。このメーカーは地方政府などが出資する民族系企業で、海外資本は入っていない。
「設計の基本はコピーです。他社が新車を発表すると1台買ってくる。『3Dコピーマシン』で、デザインの細部から分解した個々の部品まですべて舐めるようにスキャンし、データをCAD・CAMデータ(工作機械で製造可能なデータ)に変換する。そっくりではまずいので、ところどころ寸法を変えます」
「例えばホイールベース(前輪軸と後輪軸の間隔)の寸法を変える。するとハンドルを回した際の回転半径や車の安定性、強度などが変わってくる。しかし、その良し悪しを判断する知識や経験がないので、私のような技術顧問が分析や評価を依頼されます」
「彼らが自分で判断できるよう理屈を教えるのですが、答えだけ知りたがり、自分で実験や改良研究をすることはしません。部品一つとっても、なぜその寸法になっているかを自分で考えることはしない。これでは技術の高度化は図れない。寸法を変えてトラブルが起きた場合、理屈が分かっていないので対策の取りようがない。またノウハウがチーム全体で共有されることはありません。より高給の別企業に転職することも多いので、ノウハウは個人財産になってしまう」
「いま深刻なのは売れない車が外の路上にまであふれていること。中国の全生産ラインの能力は約5000万台で、需要の2倍もある。それでも倒産せずに車を生産している。地方政府の資金援助や融資で助けられているようだ。中国メーカーの未来には限界があると感じます」
模倣の弊害は、航空機のジェットエンジン開発でも出ている。大手メディアの「新浪網」が報じたところでは、戦闘機のエンジンは、1960年代に開発した「WS―6」から現在の「WS-14」に至るまで、燃料漏れや出火を繰り返している。「模倣したエンジンを土台に次の開発をするので、どこが正しくどこが欺瞞なのか、誰にも分からなくなっている」という。
このため中国は最近、ロシアの最新鋭戦闘機「Su―35」24機を購入することを決めたが、ロシア側から、リバースエンジニアリング(分解して構成部品や要素技術を入手すること)を厳しく禁じされ、不正に行った場合は巨額の違約金を課される契約になった。
新浪網は「まず模倣する、だめだったら別のエンジンを模倣する、上手くいかなかったら外国製を買うというやり方がそもそも間違いだ」と批判する。
スマホ市場で急成長している小米(シャオミー)。OSにアンドロイドを使いながら体裁や動作はiPhoneそっくりなのが人気の秘密だ。iPhoneの部品メーカーと交渉し、B級品を大量に仕入れて安く仕上げているとされる。
ドイツの電機メーカー・シーメンスの幹部は最近、筆者に「中国の工作機メーカーから、『同時5軸』のマシニング・センターの制御技術を提供するよう要求されて困っている」と語った。
この技術は一度に5つの異なる機械加工を可能にするもので、生産の高度化に欠かせない。それを自力開発するのではなく、よそから頂戴しようというのだ。
この事例は対価を払うだけマシかもしれない。中国の産業スパイがハッキングでハイテク企業の情報を盗むケースは増加の一途である。欧米や日本企業がかなりの被害を受けている。日本の特許庁のデータベースには、中国企業によるアクセスが相当数あると言われている。
なぜ、中国企業はコピーに走りイノベーションの意欲に欠けるのだろうか。
「国民性がそうなのだ」と言ってしまえばそれまでだが、日本の機械メーカーで幹部を務める中国人技術者Bさんは、「制度面で二つの欠陥がある」と指摘する。
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