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 今月5日から7日、独ハンブルグで開催された「世界出版エキスポ」(世界新聞・ニュース発行者協会=WAN-IFRA=主催)では、テクノロジーを使ってメディアを新たな形で提供する試みが紹介されていた。出版エキスポのレポート第2回目として、新しい波を伝えてみたい。

ドイツは新たなニュースサイトのラッシュ状態

 エキスポの会場内で開催された「国際ニュースルーム・サミット」(6日)で、午後のセッションの壇上に上がったセバスチャン・ホーン氏は、「3か月前までは、ジャーナリズムの経験が全くなかった」という。「もっぱら、ニュースを消費するほうだった」

 ホール氏はテクノロジーのスタートアップを目指す若者たちが共同に使うオフィスの片隅で、パソコンを叩くエンジニアの一人だった。ハンブルグを拠点する週刊新聞「ディー・ツァイト」やそのウェブサイト「ツァイト・コム」の出版社が、新たな、若者向けサイトの立ち上げをするために人を募集しており、ホール氏はこれに参加してみることにした。

 「ドイツでは今、毎週のように若者たちによる新たなニュースのプラットフォームが生まれている。自分もその中に入ったことになる」

ビルト紙が立ち上げた「byou」 拡大ビルト紙が立ち上げた「byou」

 独週刊ニュース誌「シュピーゲル」がネットネイティブと言われる「ミレニアル世代」(20代から30代)向けに「bento.de」を、大衆紙ビルトが「byou」を立ち上げた上に、米国の口コミサイト「バズフィード」や「ボックス」がドイツ語サービスを開始する見込みで、確かに、ドイツは今、新たなニュースサイトのラッシュ状態だ。
ホーン氏は「既存の大手メディアのような『守るべきもの』が何もない。だから自由にサイトを作ることができた」という。

 サイトの制作にはブログソフト「ワードプレス」を使って4週間で完成させた。既存サイトからニュースを拾ってくる「キュレーション」作業で集めた記事とともに、独自の記事を掲載する「ze.tt (ゼット) 」を2か月前にスタートさせた。

 もう1つのホームページとしてフェイスブックを使い、読者からのフィードバックの声を聞く。

 若者が好む記事は何か? ホーン氏によれば、「読んでいて面白いもの。人にかかわる話。前向きな話」だ。大きな反響があったのが、欧州に押し寄せる難民の話だった。「現状を知りたい」「何かできることないか」という反応が大半だった。

 「読者からのフィードバックを生かしながら、新しい物語の語り方(ストーリーテリング)を作ってみたい」

 まだ正式リリースの前だが、これまでの成功の鍵は「読者とともにコミュニティーを作ること」。フェイスブックがコミュニティーづくりの場として機能したという。また、「編集スタッフには、読者と同じ年齢層で新しいことを試すことを好む人を選ぶこと」。

ニュースが生活の中に入り込む

 エキスポの展示会場に行ってみると、黒い筒状のデバイスを紹介している若者たちがいた。
「アレクサ、ニュースを読んでくれ」、一人が筒に向かって声をかける。筒の上部が薄青く光った後、機械音声によるニュースが流れ出た。この筒は、今年6月、米国で販売が開始された、アマゾン社のスピーカー「エコー」だった。

 縦約23センチのエコーは、スマートフォンに入っている、音声認識によりさまざまな作業ができる「Siri(シリー)」に似ている。「アレクサ」は愛称で、利用者が自分で名称を変えられる。設定をすれば、ニュースを閲読してくれるばかりか、音楽を流したり電気のスイッチをつけたり消したりも可能だ。ニュースは「アマゾンが提供している」と説明されたが、ここに新聞社などが参入する道が開けそうだ。ラジオとは違って、そばに行って電源をつける必要がなく、部屋の中の離れた場所からも作業を指定できるという。

 現在はまだ初期段階のエコーだが、これは「モノのインターネット化」、つまり家電も含めてすべてネットとつながる動きの1つだろう。

 部屋の片隅にエコーが普通に置かれていて、声をかけるだけでニュースや音楽を聞いたり、電気をつけたり消したりもできる―。ラジオやテレビがエコーと合体することもあり得るだろう。価格は日本円で2万円弱ほどだが、そのうち、下がることもありそうだ。

 ただし、エコーに限らないが、「つながっている」世界は個人のプライバシー情報が意識しないうちに収集され、監視対象となったり、情報が本来の目的以外のことに使われる可能性もある。プライバシー擁護を重要視する欧州ではどこまで広がるだろうか。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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