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 今月5日から7日、独ハンブルグで開催された「世界出版エキスポ」(世界新聞・ニュース発行者協会=WAN-IFRA=主催)で、ジャーナリズムの未来図を描いたレポート http://www.journalism2025.com/ が注目を浴びた。「オランダジャーナリズム基金」が作成し、2025年、今から10年後のジャーナリズムの生態圏の予想図として4つのシナリオを描いている。今回はこのレポート「何が新しい(ニュース)か?―ジャーナリズムの将来のためのシナリオ」の内容を紹介したい。

オランダメディアの苦境から、新しい道を探る

 ジャーナリズム基金 http://www.persinnovatie.nl/は、財政困難に陥ったメディアを支援し、言論の自由の多様性を維持することを目的とし、オランダ政府が1974年に発足させた。教育・文化・科学省の予算によって運営されている。

「オランダジャーナリズム基金」のウェブサイト拡大「オランダジャーナリズム基金」のウェブサイト

 2010年以降は新しいツールやプラットフォームを使うメディアやジャーナリズムのプロジェクトを中心に財政支援を行ってきた。「イノベ―ション、ジャーナリズム、実効性」を判断基準として選んでいるという。

 もっとも人気が高いのは年間4万ユーロ(約540万円)が拠出される支援プログラムで、2年間有効だ。基金によると、2010年から14年の5年間で、78のプロジェクトに790万ユーロの支援を行ったという。

 レポートは作成の背景を記している。これによると、オランダのメディア環境が激変し、ジャーナリズムを担ってきた新聞社や放送局の存続が危うくなっている状況があった。

オランダジャーナリズム基金のレネ・ファン・ザンテン代表(ジャーナリズム基金提供) 拡大オランダジャーナリズム基金のレネ・ファン・ザンテン代表(ジャーナリズム基金提供)

 人口約1700万人のオランダで、日刊新聞の発行部数は過去15年間で150万部減少。放送メディアでは、米ネットフリックス(オンデマンドの動画サービスで、長編ドラマを提供)やユーチューブ、高品質なドラマを流す米ケーブルテレビ局HBOが人気を得ている。

 新聞社や出版社が次々と売却され、数百人のジャーナリストが職を失っていった。日刊紙は編集部を縮小させ、フリーランスを増やしている。ところが、メディア環境が大きく変わっていても大手メディアはビジネスモデルを変えようとしない。紙媒体から電子版に比重を移しつつはあっても、ネットからの収入はまだまだ微々たるものであるために、新たな収益のモデルが見つかっていない状態だ。地方では地元の新聞がないところが増えていた。

 2013年末、ジャーナリズム基金は出版社幹部、記者、フリーランスのジャーナリストたちから話を聞き、将来、どのような具体的な道があり得るかを探るべきという結論に達した。

「何が新しい(ニュース)か?ジャーナリズムの将来のためのシナリオ」レポートの表紙拡大「何が新しい(ニュース)か?ジャーナリズムの将来のためのシナリオ」レポートの表紙

 これを受けて、2014年春、所轄の大臣がジャーナリズムの現状と未来について調査レポートを複数作成することを国会で報告。20205年のジャーナリズム像をまとめたレポートはその1つだ。

 作成にあたり、基金は150人に上るジャーナリスト、編集者、フリーランサー、ビジネスマン、科学者、エンジニアを対象に会議を複数回開催し、個別にインタビューも行った。この過程で見えてきた将来のトレンドと4つのシナリオを物語風にまとめた。

 エキスポの会議場でレポートを紹介した、ジャーナリズム基金のレネ・ファン・ザンテン代表によると、レポートは具体的なビジネスプランを示しておらず、どのシナリオも「同程度に実現の可能性がある」という。

 「どれを選択するかは、あなたの判断による。どれを選びますか?」

4つのシナリオとはーーシナリオ1 「クラウドの知恵」

 「クラウドの知恵」の世界で主導権を握るのは、クラウド上のパートナーシップだ。

 政府の役割は限定され、市民の行動を手伝うだけの存在だ。利用者のプライバシー擁護について充分な注意を払っていないと見なされた米アップル、フォックスニュース、フェイスブックなどの巨大な複合企業の影響は大幅に減少している。

 テクノロジーの革命によって、「自分のことは自分でやる」という精神が成功の鍵になっている。「ニュース」がなんであるにせよ、メディア企業は提供しておらず、市民あるいはクラウドが作っている、ジャーナリストは主として情報を集め、監督し、コミュニティを管理する人物だ。

 ニュースはネット上に存在するものとなっており、誰でも発信できる。ニュースはシェアされ、1つの記事ごとにお金を払う(マイクロペイメント)。

 ジャーナリズム業界は何の役割も持たないが、特定の才能あるジャーナリストがその役を果たす。市民と消費者が一緒になって社会の有りようを決めてゆく。

シナリオ2 「ほんの一握りのリンゴ」

 「ほんの一握りのリンゴ」の世界では、ごく少数の巨大複合企業が経済、社会、政治の議題をますます決定するようになる。巨大ネット企業のCEOが世界の多くの政治的指導者よりもパワフルだ。小規模のメディア企業は吸収されてしまったか、市場から撤退した。すべてがブランド化され、流通チェーンを通して広がってゆく。ニュースも同様だ。個人化されており、常にちょうどよい時に市民に届けられる。

 伝統的なメディアの大部分はこの過程を生き抜くことができなかった。まだ残っているメディア企業は独立した存在であるようにと一生懸命だ。しかし、消費者の大部分は、自分たちが欲しいものを得ている限りは、このようなメディアはつまらない、興味の外にあるものとして受け止めている。

 ニュースとはネット上に存在するものとなり、大きなブランド、ネットのプラットフォームが提供者だ。記事化した広告、いわゆる「ネイティブ広告」や大きな通信社が力を持つ。

 ニュースにお金を払うのは広告主で、利用者は無料で閲読できる。利用者が作るコンテンツは少ない。検索エンジンの検索手法が工夫され、特定の記事を目立つようにできる。プロのジャーナリストと市民との共同作業はない。

 この世界では、オランダのような中規模のジャーナリズムは消える。巨大複合メディアがその存在を必要としなくなるなるからだ。ただし、小規模の独自のジャーナリズムは残る。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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