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日本国民の民度を試す、食料品への軽減税率導入

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 食料品への軽減税率の導入が政治的に決定された。これを主張したのは、消費者重視の政治を掲げる公明党である。連立政権の枠組みを維持したい総理官邸が、自民党の税制調査会のメンバーや財務省の反対を押し切った形となった。

TPPで野菜や果物は安くなる?

 他方で、TPPで関税が撤廃される品目は、これまで日本が結んだどの自由貿易協定をも上回る95%になったと公表された。農産物は81%の品目で関税を撤廃することになった。これについて、食料品の価格が安くなるというメリットを強調する報道が多い。

 実際、どれだけ消費者はメリットをうけるのだろうか?

 撤廃されると報じられた品目の関税について見よう。ニンジン、ダイコン、キャベツ、レタス、ホウレンソウなどの野菜は3%である。玉ねぎは比較的高く、8.5%。果物は野菜より高く、キウイ8%、サクランボ8.5%、ワイン15%、オレンジ16%(みかんとダブる期間は32%)、オレンジ果汁21~30%、リンゴ17%、となっている。

 オレンジについては、12万トンの輸入量のうちTPP参加国から11万トンも輸入している。しかし、うんしゅうみかんの生産量86万トンからすれば、わずかな数字である。しかも、うんしゅうみかん以外に、伊予かん、ポンカン、デコポンなどの生産も30万トン程度ある。

 90年代にオレンジが自由化(輸入数量制限の撤廃)されてから、国内の産地は、みかんの品質向上だけでなく、伊予かん、デコポンなど、食べやすさや味で、オレンジを上回るような品種改良を行ってきた。関税が下がっても、オレンジの輸入は増えないだろう。

 実は、日本農業にとって、オレンジより脅威なのはオレンジ果汁である。みかん果汁の国内生産は激減し、現在では0.6万トンしかない。輸入されるオレンジ果汁は9.4万トンである。しかし、このうちTPP参加国からの輸入は0.8万トンに過ぎない。

 オレンジといえばアメリカを想像するが、アメリカからの果汁の輸入は0.2万トンに過ぎない。日本に果汁を輸出しているのは、ブラジルである。コスト的には、アメリカはブラジルの足元にも及ばない。そのブラジルはTPP参加国ではない。オレンジ果汁の輸入も増えない。

 リンゴやサクランボは、日本の果物は海外のものと差別化が図られており、これも輸入が大きく増えるとは思えない。

 では、ワイン、キウイ、野菜はどうなのだろうか?ほとんどの報道が見落としているのは、輸入された農産物をそのまま消費者が購入するのではないという事実である。

 例えば、輸入されたキャベツは、長野県の農家が収穫したキャベツと同じスタートラインに立っている。これから流通コストがかかるし、卸売業者やスーパーなどのマージンも追加される。輸入時のキャベツの価格が50円、関税1.5円がかかって51.5円、それにいろいろなマージンなど60円が追加されて、消費者は111.5円で購入したとしよう。関税が撤廃されると、消費者は1.5円、1.3%だけ安く購入することになる。関税と同じパーセントで消費者価格が低下するわけではないのである。ワインの15%の関税が撤廃されても、消費者価格はそれより低い比率、たとえば10%しか下がらない。

 この2年間で、為替レートは50%も円安になっている。100円で輸入されたものが、今は150円で輸入されていることになる。ある産品で49%の関税が撤廃されたとしても、輸入品の価格(150円)は関税込みの2年前の価格(100円+49円=149円)よりも高い。円安は関税を上げたのと同じ効果を持っているのである。

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