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「20代」から「50代」に老成する中国

国有企業と生産年齢人口の視点から

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

政治の産物である無難な数字 

 中国が10月19日に発表した7~9月期の経済成長率(実質)は6.9%に落ち込んだ。中国としては、経済が悪いことは認めざるを得ないが、海外資金の流出や政権基盤への打撃を考えれば本当のことは言えない。そこで誰もが予想していた6.9%という無難な数字を出してきたのだろう。

中国の経済成長率の推移(%)拡大中国の経済成長率の推移(%)

 李克強首相が遼寧省トップだった2007年ごろに使っていた経済指標(鉄道貨物輸送量、電力消費量、銀行貸し出し)がある。これを現在に適用すると成長率は3%程度になるという。

 しかし、最近の貨物輸送の大半は鉄道からトラック輸送に切り替わり、電力消費も省エネ型のIT産業が発展している今では産業全体を正確に表しているとは言えない。結局、国家統計局以外は誰にも正確なことは分からず、政治の産物である6.9%の是非を議論してみてもあまり意味はない。

経済の実態を表すニュース

 それよりも筆者が注目したのは、GDPと同じ19日夜にさりげなく発表された、国有企業の中国中鋼集団(シノスチール)が社債380億円の償還で債務不履行(デフォルト)に陥ったというニュースである。これが経済の実態を表している。

中国企業が建設をてがける欧州青年五輪会場そばの商業施設の工事現場で働く中国人労働者=2015年4月、トリビシ拡大中国企業が建設をてがける欧州青年五輪会場そばの商業施設の工事現場で働く中国人労働者=2015年4月、トリビシ

 中国中鋼は2004年ごろから金属価格が高騰するのを見て、豪州など各国で鉄鉱山を買いあさった。鉄鉱石の世界供給網を支配することを夢見た中国政府は、中国中鋼に積極投資を促し資金調達を後押しした。

 ところがリーマンショック後、世界の景気後退で鉄鋼は一転供給過剰になり価格は下落。ロイター通信によると中国中鋼の負債総額は1000億元(1兆9千億円)に膨らんだという。今は世界各地で投資していた開発プロジェクトを次々閉鎖している。

 中国中鋼は、政府の国有企業政策(優遇や介入)の失敗を示す典型的なケースである。この夏以降、政府は国有企業改革のために赤字企業の解体や再編を促している。ところが、自らに責任がある中国中鋼については、デフォルトした社債の保有者に償還の権利を行使しないよう裏で圧力をかけていたという。

 国有企業は中央政府が管轄する中核企業が113社あり、地方政府が管轄するものを含めると11万社にもなる。中国財務省によると、今年1-9月の国有企業全体の利益は前年より8%減少する一方、負債総額は11%増えて71兆7600億元(1350兆円)になったという。

 過剰設備を抱えている国有企業の負債が増えるのは、資金繰りなど経営体質の悪化を示している。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)やインドネシアの高速鉄道建設にがむしゃらに血道を上げるのは、鉄鋼、セメント、化学、機械、電機など国有企業の救済という文脈で理解できる。

 1990年代に朱鎔基首相は「民進国退」のスローガンを掲げて産業の民営化を進めようとしたが失敗。その後の胡錦濤時代には逆に「国進民退」が顕著になった。中国のイデオロギーではいまだに「公有制の堅持」が建前だ。

 国有企業は独占禁止法の例外扱いされて保護され、融資は国有銀行から低金利で受けられる。一方、政府や共産党の介入で腐敗の温床になりやすく、人脈や情実がモノをいうので、経営効率は民間企業よりかなり悪い。中国中鋼のようなケースは他にも資源や造船、化学、不動産などに隠れているはずだ。

 こうした非効率な国有企業群が産業政策の基幹を握っている限り、本格的な技術や経営のイノベーションは起きようがなく、産業は競争力を失って国家の沈滞と老成が予想より早く訪れる、と筆者は考えている。政府は「サービス産業が伸びている」と言うが、第二次産業の不振はやがて経済全体に波及するだろう。

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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