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間違いだらけの就活 採用を28歳まで緩和せよ

就活改革のための五つの提案

小原篤次 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

 「就活スケジュールを信用するな」

 2016年大学卒業予定者を対象に、8月開始とした就職活動(企業にとっての採用活動)スケジュールの見直しが、主に財界から提起されている。

企業との面接に臨む学生ら=2015年10月、群馬県伊勢崎市拡大企業との面接に臨む学生ら=2015年10月、群馬県伊勢崎市

 現在の就活スケジュールが混乱したのは、選考開始だけを4月から8月に後倒しにして公式の内定日を10月に据え置き、選考期間を6カ月から2カ月に短縮したことである。筆者も2013年にWEBRONZAでも指摘しているが、この就活スケジュールには問題が多く、長続きしないことは明らかだった。一教員としては「就活スケジュールを信用するな」と、学生に早期の活動開始を呼びかけていた。

 実は現在の就活スケジュールは、安倍首相から経済界に要請され、「日本再興戦略」のなかで、2013年6月14日に閣議決定されたという経緯がある。2年前は、学習時間の確保、留学などの促進を理由にあげていた。予想される後倒しの短期的な結果は、内定しても卒業できない学生が増加することである。雇用のミスマッチで入社後、短期間で退職者が増加する要因として懸念される。

 さて、当時は、自民党の人気者、小泉進次郎議員も就職活動応援に積極的に動いていた。地方学生に都市再生機構の賃貸住宅を低価格で提供するという取り組みを依頼して、内閣府主催の「若者・女性活躍推進フォーラム」を経て政府にも働きかけ、実現したのだという。2013年7月31日付の都市再生機構のリリースによると、1LDKの部屋3戸(学生負担は無料もしくは3000円)が暫定的に提供されている。

 安倍首相や小泉議員の名前が出るくらい、就職活動時期の後倒しは政治家も関与した政策だった。アベノミクスは自由主義と官邸主導(トップ・ダウン)のポリシー・ミックスである。就活スケジュール改正(改悪)では後者の性格がにじみ出た。今年度の就活スケジュールについては、失政の指摘・批判の回避、世論動向の見極め、はたまた雇用状況が改善しているためか、今のところ、政治家から具体的な発言はほとんどみられない。

雇用改革で得をするのは求人広告サイト運営会社

 それ以前にはリーマンショック後の緊急雇用対策で、キャリア教育の必要性が叫ばれ、小学校から大学まで程度はあれ、導入された経緯もある。高校までよりは、多様な経歴の教職員を抱える大学でも、求人広告サイト運営会社や、近隣の官公庁や企業にキャリア教育をアウトソーシングするのが実態である。

 さらに、大学就職部やキャリアセンターが学生に対して、リクナビやマイナビなど求人広告サイト運営会社が実施する合同説明会への参加を呼びかけるほか、合同説明会から遠隔地の大学では大学予算をねん出して、バスをチャーターする光景も珍しくない。

 人材育成には相当な年数がかかるにもかかわらず、短期的な景気対策、一部財界人や政治家の発言(多くはご自身の過去の経験に基づいた)に、大学生や教育現場が振り回される状態が続いている。リクルートなど求人広告サイト運営会社の認知度、教育現場への浸透度(キャリア担当教員としての採用も含めて)は高まっただろうが、どこまで就活が円滑になり、人材力が高まったのだろうか。

就職スケジュールは法律規定ではない

 日本経済団体連合会など経済界が文部科学省や大学に示したスケジュールの名称は変遷している。1954年大学卒業予定者から1997年大学卒業予定者までは就職協定、その後、倫理憲章となり、今年度は指針だった。

 今年、「正直な学生が損をする」といった報道もあったが、経済界と教育界が定めたスケジュールはたとえ名前を変えても罰則を伴う法律ではないという点では今の昔も変わりはない。法律の拘束ではない以上、これまでも現在も、実際の採用活動スケジュールは自由にできるものだと解釈すべきだろう(就活スケジュールの変遷については株式会社学情のリンク先を参照ください。日清戦争当時から2016年大学卒業予定者まで簡潔に整理されている)。

http://service.gakujo.ne.jp/data/201309

 企業が就活スケジュールから逸脱しても、東京地検特捜部や国税庁が捜査令状を持って、企業に乗り込むわけではない。東京証券取引所が上場廃止を検討するわけでもない。粉飾決算とは全く違うレベルの極めて些細な逸脱に過ぎない。

大学は機動的には変化しない制度である

 スケジュールについて、企業と大学の間には大きなギャップがある。企業には名目と実質のスケジュールが存在する。経団連加盟企業や、マスコミ(人事部門)にとっても、協定・憲章・指針というのは企業の名目の就活スケジュールに過ぎない。

 実質的なスケジュールは自社の採用ニーズ(経営計画、業績見通し、退職者数による)、雇用状況全般、同業者の採用状況などを勘案しながら、実質のスケジュールよりは柔軟に実施されるものである。マクロ経済の視点からは、雇用環境が悪化すれば、名目と実質の乖離は少なくなり、雇用環境が好転すればかい離は大きくなるものである。

 他方、大学は入学時点で卒業までのカリキュラム(卒業に必要な単位数)を保証しなければならない制度(監督官庁で補助金配分をつかさどる文部科学省が定めた)を順守する義務を負っている。よって、大学は企業の名目スケジュールを前提として、カリキュラムに組み入れるしかない。

 今年度、経団連企業であっても、実際には選考のための面接を「OB・OG訪問」、「面談」、「意見交換」、「座談会」、「インターシップ」、「見学会」などの言葉に置き換えれば、スケジュールに触れていないと、社内外に説明できるだろう。こうした置き換えも使いながら、名目と実質を使い分けてきた。おそらく多くの経団連企業は名目上、公式には順守してきたに過ぎない。

 繰り返しになるが、企業にとっては建前に過ぎなくても、大学は公式なものとして受け入れてきただけである。企業が名目の就活スケジュールを廃止しないのであれば、大学側は統一的なスケジュールはないと、学生に指導すべきである。就活スケジュールは名目やフィクションとして、指導すべきである。

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筆者

小原篤次

小原篤次(おはら・あつじ) 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

長崎県立大学国際情報学部准教授。1961年、大阪府堺市生まれ。同志社大学法学部卒、国立フィリピン大学修士。朝日新聞社、チェースマンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース)、みずほセキュリティーズアジア初代株式調査部長、みずほ証券リサーチ&コンサルティング投資調査部副部長を経て現職。【2015年12月WEBRONZA退任】

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