21世紀のパワーポリティクスの大きな波乱要因に
2015年11月18日
英国と中国が関係を深めている。10月末に訪英した習近平主席は、金融街シティ、英国議会、女王の国賓晩さん会の3カ所で演説する機会を得た。とりわけシティでの演説は、英国を先導役にして米国率いる西側世界に攻勢をかけたいという野望に満ちていた。
習主席はこう述べたのだ。「英国が対中協力の各分野の潮流を導き、西側と中国の協力の先導役となり、実際の行動によって『西側世界における中国の最強の支持者』を実践することを期待する」(人民日報電子版)。
こう露骨に「露払い」の役目を押し付けられても、英国は中国に微笑を送り続けている。人民元の国際化は英国が全面支援しているし、AIIB(アジアインフラ投資銀行)では、米国の反対にも構わず欧州で最初に参加表明した。英国が親中路線に舵を切ったことで、70年続いた米英蜜月はすっかり霞(かす)んで見える。
今回の習訪英で合意された協定は59に上る。その多くが経済目的で、動く金額は7兆5千億円になる。英国は高齢の女王まで引っ張り出し、ドイツやフランスに出遅れた中国ビジネスを一気に挽回したいという意気込みが目立った。
貿易面では、ロールスロイス製の航空機エンジン「トレント700」を3千億円で大量購入するというニュースが筆者には驚きだった。今回は海南航空のエアバス向けだが、中国は国家プロジェクトであるジェットエンジン開発に民間用・軍事用とも難航しており、世界の三大メーカーの一社であるロールスロイスと国家間で提携するメリットは大きい。
「市場と技術を交換する」というのが中国得意の手法なので、今後、ロールスロイスの技術が自力開発中の国産旅客機「C919」に使われる可能性がある。民間機だけでなく、建造中とされる2隻の航空母艦の艦載機に技術が使われる可能性も否定できない。中国は陸軍偏重から空海軍重視へ転換を急いでいる。米国は英中の動きに神経を尖らせているだろう。
グラフは、世界の主要証券取引所の株式時価総額を示している。ロンドンは世界6位にとどまり、2007年から15年にかけて時価総額は20%も低下した。一方でアジア市場は76%上昇し、とくに上海・香港の台頭が目覚ましい。英国が中国に活路を求める理由はここにある。
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