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[20]60代はゴルフ黄金期 (下)

ゴルフの恵みを味わい尽くす

山口信吾 ゴルフ作家

好きなことに熱中してこその60代

 定年制度が普及した1950年代中頃には、55歳で引退するのが通常だった。1955年の日本人男性の平均寿命は63.60歳であり、定年後の人生は9年に満たなかった。このころ、定年後が〝余生〟と考えられたのはもっともだ。それから60年が過ぎて平均寿命が80歳を超えた今でも、定年後は余生との考えが社会の底流に横たわっているようだ。定年後の暮らし方や生き方について若いときから考えている人は少ない。

 厚生年金の支給開始年齢引き上げにともなって高年齢者の雇用確保措置が義務付けられ、65歳まで働き続けるのが一般的になりつつある。ただ、再雇用されても定年は再びやってくる。65歳からの人生も、晴耕雨読で過ごすにはあまりにも長い。

 60代は、2つの意味で人生の特別な時間である。1つ目は、住宅ローンの返済や子育てから解き放たれることだ。60歳からは、収入にこだわることなく好きなように生きることができる。

 2つ目は、体力も気力もまだ十分に残っていることだ。今年6月、日本老年学会は、「現在の高齢者は10~20年前に比べて5~10歳は若返っている」とする声明を発表した。ある調査によれば、身体能力の測定に使われる歩行速度ひとつとっても、現在の75歳は10年前の64歳と同じなのだ。医療の進歩や食生活の変化、健康意識の高まりが高齢者の若返りを後押ししている。

 認知能力もまた、加齢によって全面的に衰えるわけではない。たとえば、短期記憶能力や情報処理能力は50歳を過ぎると急激に衰えるが、言語能力や日常問題解決能力は、むしろ年齢とともに磨かれ向上し続ける。

 60代は、人生を謳歌(おうか)できるかけがえのない時間である。貴重な60代を何となく過ごしてしまうのはもったいない。定年は、「こんなことをしたい」と思ってきたことを実行に移す絶好の機会なのである。

 ゴルフの選手寿命は他のスポーツに比べてはるかに長い。65歳までは間違いなく上達し続けることが可能だ。70歳までは長いゴルフ旅をする体力も気力も残っている。ゴルフに真剣に取り組んでいる人なら、「ゴルフに思いっきり打ち込みたい」「各地の名コースを訪れてプレーしたい」「ゴルフ発祥の地を訪れて名高いコースでプレーしてみたい」と思っているはずである。心身ともに元気な60代に、ゴルフの恵みを味わい尽くすのだ。

 仕事をしながらゴルフを謳歌するところに、第二の人生の妙味がある。いくらゴルフが好きだといっても、ゴルフ三昧(ざんまい)にふけるだけでは退屈な人生になりかねない。ゴルフ代を稼ぐためにも仕事が必要である。

 定年後は、平日にゴルフをするのが当たり前になる。平日のゴルフを誘われて断っているようでは、ゴルフ友だちがいなくなってしまう。長い休暇をとってゴルフ旅行を楽しむためにも、休みたいときに休める仕事が望ましい。組織にしばられないで長く働ける定年後の仕事を見つけるのだ。平日でも休むことができて、長い夏休みも取れる仕事が理想である。年金をもらえるのだからバリバリ働く必要はない。満員電車に揺られて通勤する生活を卒業して、スケジュールが自由になる仕事を探すのだ。

老いてますます盛ん

 昨年の3月末、10年にわたって務めた民事調停委員を退任した。「ゴルフ黄金期」と、民事調停委員を務めていた10年間はぴったり重なっていた。70歳は、仕事のうえでも、ゴルフのうえでも大きな節目だった。

 黄金期が終わったとはいえ、ぼくのゴルフ人生はまだまだこれからである。ゴルフにかける思いはいささかも衰えていない。幸いなことに持病もない。黄金期の余韻を楽しみつつ、さらに進化を続けて「ゴルフ円熟期」を堪能したいと思っている。

 これからの進化の方向は見え始めている。どこにも余計な力が入っていない軽やかなスウィングを身に付けるのだ。歳を重ねても飛距離をあきらめる気はない。飛距離への執着心が消えたらゴルフはおしまいだ。筋力が衰えても飛距離を保つことはできる。「真向法」と呼ばれる腰回りのストレッチに励みながら、10年にわたって愛用している重くて長いドライバー(303グラム、47インチ)を振り続けるのが、飛距離を維持する秘訣(ひけつ)だと確信している。

 長打者の若い世代と一緒にプレーすると、ぼくはいつも最初に第2打を打つ。ぼくがフェアウェイウッドを使ってボールをグリーンに乗せると、後から打つ長打者は、もっとピンに近いところに乗せなくてはというプレッシャーを感じてミスショットをしがちである。せっかくドライバーで飛ばしたのに、飛距離で劣る対戦相手にスコアで負けるとずいぶん悔しいのだそうだ。

 ぼくは、自分の〝有効射程距離〟を超える距離が残れば、無理をしないで、次のアプローチを打ちやすい所へボールを運ぶ。ぼくがアプローチでぴったり寄せてパーを拾えば、パーオンしている対戦相手は嫌な顔をする。得意のフェアウェイウッドの精度をさらに上げるとともに、アプローチとパットに磨きをかけて、飛ばし屋をへこませ続けるのだ。

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筆者

山口信吾

山口信吾(やまぐち・しんご) ゴルフ作家

1943年、台北市生まれ。九州大学工学部建築学科を卒業後、同大学院を修了。69年、竹中工務店に入社。72年に渡米し、ハーバード大学デザイン大学院修了後、米国大手設計事務所に勤務。75年に帰国して竹中工務店に復帰。一貫して都市開発プロジェクトに従事。2004年の定年退職後はゴルフ作家として活動している。43歳でゴルフを始めた遅咲きゴルファー。ベストハンディキャップ8。97年以来、毎年のように英国の海岸地帯の「リンクス」と呼ばれる自然のままのコースを巡る。『定年後はイギリスでリンクスゴルフを愉しもう』(亜紀書房)、『普通のサラリーマンが2年でシングルになる方法』(日経ビジネス人文庫)、『死ぬまでゴルフ!』(幻冬舎)など著書多数。自身のブログはhttp://www5f.biglobe.ne.jp/~single 【2016年3月WEBRONZA退任】

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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