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日本は米中が接近していることを知らない

対立がクローズアップされる陰で、米中のG2が手を携えて世界を導いた分野がある

尾形聡彦 朝日新聞機動特派員

対立一辺倒ではない米中関係

パリでの国連気候変動会議(COP21)の開幕の前に開かれた11月30日の米中首脳会談で握手するオバマ米大統領(左)と、習近平・中国国家主席=AFP時事拡大パリでの国連気候変動会議(COP21)の開幕の前に開かれた11月30日の米中首脳会談で握手するオバマ米大統領(左)と、習近平・中国国家主席=AFP時事

 米国と中国の関係はどうなっているのか。

 日本で目にする米国と中国の関係についての報道は、「南シナ海を巡る米中対立」、「サイバー攻撃についての見解の相違」――といった形で、米中の対立を強調するものが多い。ただ、12月12日に合意した地球温暖化対策での「パリ協定」では、米国と中国が協力し、世界をリードしたことが合意につながった。

 パリ協定は、1997年の京都議定書以来18年ぶりとなる温暖化対策での世界的な新たな枠組みで、米中の連携が世界全体を動かした初めての例と言ってもいい。米中関係は対立一辺倒とはいえないのが実態だ。

 日米英独仏伊加の主要7カ国(G7)に代わり、米国と中国の2大国(G2)が世界を動かす「G2時代」は、2009年のオバマ政権発足以来、浮かんだり消えたりしてきた。

 今回のパリ協定に至る過程では、2014年11月に温暖化対策でオバマ米大統領と習近平・中国国家主席が合意したことが土台になった。その両首脳の合意の背景には、実は習氏が主席に就任する前の2011年からの首脳級交流の積み重ねがある。

 日本国内では米中の対立を望むような論調も少なくない。そうした米中対立の陰で進み始めた、G2の芽を見逃してはならないと思う。

パリ協定の舞台となったCOP21

 今回パリ協定の舞台になった、「国連気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)」。
地球温暖化に伴う異変を防ぐため、先進国や途上国を含めたすべて国が参加する枠組みを目指していたこの会議がパリで開幕した11月30日、オバマ米大統領と習近平・中国国家主席は、首脳級の開幕会合に参加する直前に会場の一室で米中首脳会談を開いた。

 オバマ氏は「米国と中国には、相違点よりも共通点のほうがずっと多い。私たちが連携すれば、良いことが起こる」と習氏に英語で語りかけたあと、最後に中国語で「謝謝(シェシェ、ありがとう)」と付け加え、2人はがっちり握手した。

 習氏も「我々は、持続的かつ健全で着実に成長する両国関係を確保すると共に、アジア太平洋地域や世界全体における平和や安定、繁栄を維持・推進するために共に働く必要がある」と応じた。

 「米中が連携することで世界に良い影響をもたらす」――とはまるで、米国と中国が、G7ならぬ「G2」となって世界を動かそうとしているかのようだ。日本で繰り返し伝えられる、「南シナ海における中国による岩礁埋め立てに伴う米中関係の緊張」や、「サイバー攻撃を巡る米中摩擦」といった両国対立とはまた違った姿がそこにはあった。対立の陰で、米中のG2がスタートし始めているのではないか。米首都ワシントンに滞在中に、パリからの米中首脳会談の映像を目にした私はそんな感覚を覚えた。

ホワイトハウスで質問をぶつけてみた

 パリでのCOP21参加を終え、ワシントンに戻ってきたオバマ政権のジョシュア・アーネスト大統領報道官に、12月2日のホワイトハウスの会見で直接こうぶつけた。

 「サイバーや、南シナ海での対立はあるものの、米中は気候変動では共同声明を出し、世界にリーダーシップを発揮しようとしている。米中は次第にG2の方向に進み始めているといっていいのではないか?」。この日は、会見が行われている最中に米西海岸のカリフォルニア州サンバーナディノでの銃乱射事件の発生を伝えるニュースが流れ始め、ホワイトハウスの会見室「ブレイディー・ルーム」には緊張感が高まっていた。

 旧知のアーネスト報道官は、「トシ、また会えてうれしいよ」といったん笑顔をみせたあと、答えの段になると真顔になった。アーネスト報道官は「米国はG20(日米や中国を含む、主要20カ国の会合)を世界的な多くの経済問題に対処するうえで最も効果的な組織だと考えている」とまず説明し、G2よりもG20こそが米国にとって重要な仕組みなのだと強調した。

 その一方で、アーネスト氏はこう続けた。

 「でも、気候変動問題では、(米中という)世界の二大排出国が、気候変動会議の1年前(2014年)に前面に出て、炭素排出量の削減など実質的な合意に達したことが、世界じゅうの国々の決断を促す触媒になったことは、疑いようのない事実だ。今回のパリでの会議にあたり、180以上の国々が気候変動対策での決断を表明した。これは米国と中国が共通の目的に向かって連携したときに(世界に)与えることができるインパクトを示している」

 米中が世界をリードする重要性を隠そうとはしなかった。

 もちろんこれは、オン・ザ・レコードの記者会見での大統領報道官の発言だ。それでも、その発言にさえ中国との連携に向けた意欲が読み取れる。

日本では知られていない二つの側面

 実際に複数の米政権高官の話を総合すると、サイバー攻撃や南シナ海などの海洋問題においては厳しく対立しながらも、気候変動など別の問題ではG2の芽が生まれていることが感じられる。その背後には、日本で知られていない二つの側面がある。1つは、「対米関係の構築に、主席就任前の2011年から並々ならぬ力を注いできた習近平氏」、いま1つは「実は『気候変動問題』こそがいったんはG2を頓挫させた課題であり、それを習氏が再起動させた」という点だ。

 2009年1月、米オバマ政権はG2へのほのかな期待を抱いてスタートした。オバマ米大統領は09年7月、ワシントンで開いた米中戦略・経済対話の開会式で、「米中関係が21世紀を形作る」と語り、G2に一歩踏み出した。

 流れが反転したのは、2009年末にコペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)だった。

 COP15は、地球温暖化を防ぐため、先進国と途上国がともに温暖化ガスをどの程度削減するかを話し合うのが目的だった。その場で、中国はなかなか妥協しようとしなかった。

 中国の胡錦濤政権は、むしろ中国を発展途上国のリーダーと位置づけ、新興国や途上国側が温室効果ガスを削減したり、それを監視する体制を合意に盛り込んだりすることに最後まで抵抗した。COP15では、結局、決裂寸前で主要国が政治合意をまとめただけで、具体的な内容に乏しいまま、世界全体の新たな枠組みづくりは先送りされる形になった。

 このとき、米国をはじめとする主要7カ国(G7)の間で、「中国に対する幻滅が広がった」と関係者は明かす。主要国が期待していたほど中国が妥協しなかったことで、中国は世界のリーダーの一角としての責任を果たそうとしていないという受け止めが広がり、米政権内には失望感が残った。これを機に、オバマ政権は中国により厳しい姿勢をとるようになっていき、G2の機運は薄れていった。2012年にトップに就いた習近平氏は、前任者の胡錦濤氏とは違う態度をとった。

話しながら歩くバイデン、習氏のそばで

2011年8月、四川省の歴史的史跡を自ら案内する習近平・中国国家副主席(当時)と、バイデン米副大統領。2人は、通訳だけを交えて、長時間話し込んでいた=尾形聡彦撮影拡大2011年8月、四川省の歴史的史跡を自ら案内する習近平・中国国家副主席(当時)と、バイデン米副大統領。2人は、通訳だけを交えて、長時間話し込んでいた=尾形聡彦撮影

 準備は1年前から始まっていた。次期主席就任がすでに確実視されていた2011年夏、当時の習近平・中国国家副主席は、北京でオバマ氏の右腕であるバイデン米副大統領を待っていた。北京の人民大会堂でバイデン副大統領に会った習氏は、6日間の副大統領滞在中に計6回にわたり、副大統領との会談や視察への同行を熱心にこなした。

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筆者

尾形聡彦

尾形聡彦(おがた・としひこ) 朝日新聞機動特派員

1969年生まれ。慶応大学卒。1993年に朝日新聞入社。米スタンフォード大客員研究員をへて、2002年から米サンノゼ特派員としてグーグルやマイクロソフトなど米IT企業を取材。08年にロンドン特派員、09年から12年までは米ワシントン特派員としてホワイトハウスや米財務省、IMF、世界銀行を取材した。日本の財務省・政策キャップ、経済部デスク、国際報道部デスクを経て、15年5月から現職。
Twitter : @ToshihikoOgata

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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