日本は「平和を語れない国」になる
2015年12月29日
日本政府による武器輸出が本格的に始まろうとしている(注)。防衛装備庁を新設して関係企業を統制下におき、政府主導で武器を売り込む体制が整った。国の科学技術政策も、これまでの民生用中心から軍事用とのデュアルユース(二重利用)優先に変わろうとしている。
しかし何より重要な変化は、戦後70年間平和を維持してきた日本が経済利益と引き換えに、世界に向けて平和を語れない国になることだ。
政府は12月、特定秘密保護法(2014年12月施行)に基づく身元調査の結果、秘密を外部に漏らす恐れがない「適正評価」を得た公務員と民間人が計9万8000人いることを明らかにした。うち民間人は2200人。その大半が防衛関係であり、今後の武器輸出の秘密を扱う有資格者になる。
秘密を指定した各省庁は、同法10条で「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす恐れがある」と判断すれば、国会への秘密の提供を拒否できる。内閣官房は会計検査院への資料提供にも消極的で、国民の目が届かない密室性が高まる。
この特定秘密保護法は、武器輸出三原則見直し(13年10月)、安全保障関連法(15年9月成立)とともに武器輸出の土台を形成している。
同三原則はもともと、1976年に三木武雄内閣が示した統一見解を根拠にしている。その後、日米間で共同研究の案件が生じた場合などに官房長官談話で例外として認めてきた。今回の解禁はそうした運用を廃止し、経済戦略として積極展開するのが目的だ。
解禁にはそれなりの「理屈」がある。
経団連によると、我が国の武器市場はこれまで自衛隊しかなく、生産量が少ないために価格が割高だ。世界の兵器はどんどん先端化しているが、メーカーにとって世界の水準に追いつき、かつ製造設備を維持するのは容易ではない。
そこで輸出に踏み切れば、製造コストが下がり、防衛予算にも貿易面でも有益だ。近代兵器は、機械、電子、化学、通信、IT、光学など広範な技術が必要で、すそ野が広い。そこでのイノベーションが民需部門に波及する効果も期待できる。
先行する成功事例が、韓国の武器輸出である。2006年には2億5300万ドルだったが、15年は40億ドルになると予測されている。9年間で16倍の成長率だ。
初期は兵士の装備品や部品、弾薬だったが、今では超音速高等練習機T-50をインドネシア、タイ、フィリピン、イラクに輸出している。これは米ロッキード・マーチン社が開発した戦闘機で、重要部分はほとんど米国製。それでも経済効果は1機あたり中型自動車1200台に相当する。経団連や政府が刺激を受けたことは想像に難くない。
総務省が発表した昨年の政治資金収支報告書では、企業・団体による自民党への献金が22億1500万円で突出している。献金の旗を振るのは経団連だ。法人税減税だけでなく武器輸出解禁で動いてくれたことへの謝礼の意味もあるだろう。
武器輸出の相手として想定しているのは、米国、欧州、NATO(北大西洋)、豪州、東南アジアなど。自衛隊向けとは別に、輸出専用の新規の武器も開発する。
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