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2016年の日本・世界経済は大調整の時を迎える

国民の将来の生活形態を見据えた国内需要振興などキメの細かい財政措置が必要だ

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

最近の状況を概観すると……

 2016年は、日本の経済・金融資本市場にとっていかなる年になるか。日本人の多くにとって、給料・賃金など、暮らし向きはいかになるか。

 上記の新年の恒例の設問に応えるべく、まず、日本が置かれた海外の経済・金融資本市場の最近の状況を概観しよう。更に、最近3年間余りの第2次安倍政権下でのいわゆるアベノミクス下の日本経済の推移と、最近の状況を概観してみよう。

 以上の作業の上に、2016年度の日本政府の公式経済見通しと、それを前提とした日本政府の財政・金融政策などを合成すると、2016年にはいかなる日本経済の姿が浮かび上がるかを検討してみよう。

 明日の事は、神様も決めていないかも知れない。大まかな経済・金融資本市場の見通しも、いかなる前提(仮定)の下で考えるかで、大きく異なる見方が出て来るのは、むしろ自然と言うものである。読者の皆さんには、この筆者が最も蓋然性の高いと見る様々な前提の下で考えた一つの見方として、お読みいただければ幸いである。

米国経済にはすでに景気後退の兆し

 日本経済を取り巻く世界の経済・金融資本市場の動向に先行するのは、世界の資本(カネ)の流れである。その資本の流れを大きく左右するのは、各国の中央銀行の金融政策である。

 その世界の貿易・資本取引の決済の半分余りは、米国のドルでなされている。そのドルの流れを左右しているのが、米国の中央銀行、米連邦準備制度(FRS、米国連銀)の連邦公開市場委員会(FOMC)が決定する金融政策である。したがって、米国の金融政策の変化に沿って世界の資本の流れが変わると、世界の各地域の景況、金融資本市場の状況が大きく左右されると言っても過言ではない。

記者会見に臨む米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長=2015年3月記者会見に臨む米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長=2015年3月

 米国連銀は、2008年秋のリーマンショック直後に、政策金利(フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準)を0・00%~0・25%にまで下げた。

 しかし、それでも金融システムが安定しなかった。そこで、民間金融機関などが持っていた国債、不動産担保証券などを大量に買い上げて、金融システムに対して流動性(現金)を大量に供給し、その安定化を図る量的緩和政策を発動した。

 量的緩和政策の効果については、論者によって見解が分かれる。しかし、金融システムの安定化、株式などの資産価格の大幅なつり上げ、ドル建ての原油などの国際商品相場の高騰、ドル建て資本の中国などの新興経済諸国への大量流入により、新興経済諸国の景気の飛躍的な拡大につながったことなどが、量的緩和政策の効果として挙げられる。

 米国連銀は、2014年初め以降に量的緩和政策の追加の段階的手じまいを始め、同年10月末に完了した。そうすると、米国の金融引き締めの動きに連動して、それ以前とは全くアベコベの資本の流れが、世界経済・金融資本市場を翻弄(ほんろう)し始めることとなった。

 2014年早々には、米国の小型・成長株の株価指標であるラッセル2000のなどの低迷が始まり、2014年半ば以降には、原油などのドル建ての国際商品相場の大暴落が始まった。同時に、中国などの新興経済圏からの大量の資本流出(逃避)が始まると共に、世界の株価水準の指標とされるグローバル・ダウの水準も、天井を打ち下落に転じた。

日本と欧州の「援護射撃」の効果も続かなかった

 混乱は、2014年秋には、米国、欧州、日本の株式市場にまで拡大した。

 米国に対する「援護射撃」のように、2014年10月末には、日本銀行が2013年4月から始めていた量的・質的緩和政策による国債の買い上げペースを、年間50兆円から年間80兆円へと大幅に追加することを決定した。ほどなくした2015年1月には、欧州中央銀行も、量的緩和政策に踏み切る決定をし、同年3月には実施し始めた。

 日本と欧州の「援護射撃」の効果も、半年ほどしか続かなかった。2015年半ば以降には、米国、欧州、日本などの先進経済圏の株式市場でも、株価の急落が始まった。中国の上海株式市場などでの株価の大暴落、人民元の対ドル為替相場の下落などが、先進経済圏での株価急落の引き金を引いたと解説される場合が多かった。しかし、その根底には、1年以上前から始まっていた中国からの資本の大量流出があった。

 上記の世界の経済・金融資本市場での展開は、米国連銀の政策金利が実際に引き上げられる前、単に引き上げ観測が強まっただけで起きた。2008年末以降には、政策金利はゼロ以下に引き下げられないので、米国連銀の追加金融緩和は量的緩和の形を取り、その量的緩和の追加が無くなっただけで起きた訳であった。

 そして、米国連銀は、政策金利の誘導目標範囲を、2008年12月以降は、0・00%~0・25%に8年間も据え置かれていたものを、昨年12月には、0・25%~0・50%へと引き上げた。8年間も超低金利政策を続けた結果として、米国の株価水準は、今世紀に入って2度も経験した株価急騰・大暴落直前と同様な水準にまでつり上ってしまった。

株式時価総額のGDPに対する比率

 この株価水準のバブル度を計る尺度の一つとして、株式時価総額のGDPに対する比率が簡便なものとして利用されてきた。

 米国の非金融企業の株式時価総額の対GDP比率は、リーマンショックに先行したサブプライム危機勃発時の2007年第3四半期には、110・8%もの高みに達していた。ところが、リーマンショック後の株価回復、高騰で、当該比率は2015年第1四半期には129・8%にも達していた。その翌四半期から、株価の急落が始まった訳である。

 米国連銀が政策金利を引き上げ始める前から、量的緩和政策の追加の手じまいだけで、ドル金融の引き締めは、大きく進展していたことに留意することが肝要である。その金融引き締めの効果を反映して、2015年秋の米国経済には、既に景気後退期に入ったか、景気後退期入り直前を示唆する生産、貿易、消費などの動向が見られるようになっている。

 米国の鉱工業生産指数は、2015年11月には前年同月比マイナス1・1%と、前年水準割れを起こしていた。米国経済の過去の景気パターンでは、鉱工業生産指数の前年水準割れは、既に景気後退期に入っていることを意味する。米国の財・サービスの輸出額の前年同月比も、2015年1月にはマイマス2・0%と、マイナス圏に転落し、同年10月には、マイナス6・9%と、マイナス幅が拡大している。財・サービスの輸入額の前年同月比も、2015年2月にはマイマス1・4%と、マイナス圏に転落し、同年10月には、マイナス5・2%と、マイナス幅が拡大している。個人消費の重要な指標である小売り・外食の売上高の前年同月比も、2015年11月には、0・9%と、過去の景気後退期入り直前と同様な低水準にまで低下している。

 景気後退期には、米国企業の収益も圧迫・減少する。しかも、米国企業は、利益の大半を設備投資ではなく、自社株買いで株価水準を吊り上げることに狂奔して来た。更に、超低金利を利用した社債発行などで調達した資金をも、自社株買いに大量に投入して来た。米国企業の利益水準が、2011年秋以降には低迷して来たが、株価水準が大きくつり上げられて来た背景である。

 金融引き締めの進展は、以前と同様な資金調達が困難になっていることを意味する。株価バブルの風船は、以前にも増して多量の空気(新規資金)を吹き込まなければ萎(しぼ)んでしまう。今までは好循環と見られていた事と全くアベコベの動きが、米国企業、米国株式市場、米国経済全般で、2015年半ば以降に始まっている中で、2016年の新年を迎えている訳である。

暮らしぶりの悪化はアベノミクスの当然の帰結

 では、アベノミクス下の日本経済では何が起きて来たのか。まず、アベノミクスの結果で、大多数の国民の暮らしぶりがいかに変わったかを、日本政府自身が集計・推計しているデータで見てみよう。

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