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1930年代に酷似する? 今日の世界

欧米先進国は第2次大戦後に築き上げた普遍的な価値を維持できるか否かの分水嶺に

吉松崇 経済金融アナリスト

ジハーディストに振りまわされる西欧世界

テロの犠牲者を追悼するため、ろうそくに火をつける人たち=2015年12月13日、フランス・パリ拡大テロの犠牲者を追悼するため、ろうそくに火をつける人たち=2015年12月13日、フランス・パリ

 昨年11月13日のISによるパリ同時多発テロは、世界に衝撃を与えた。これに追い打ちをかけたのが、12月2日の米カリフォルニア州サンバーナディーノでの銃乱射事件である。こちらも事件の後で犯人がISの関係者であることが判明した。

 西欧世界はジハーディスト(聖戦戦士)に振り回されている。

 言うまでもないが、フランス地方議会選挙におけるマリーヌ・ルペン率いる国民戦線(FN)の躍進も、アメリカ大統領選予備選挙におけるドナルド・トランプの共和党内での高支持率も、ジハーディストのテロが増幅したものだ。

 デンマークのエコノミストで著名なブロガーでもあるラース・クリステンセンは、「大げさかも知れないが」と断りつつも、1930年代と今日の類似点を以下のように列挙する。

(1) 金本位制と共通通貨ユーロの類似性。その帰結としての金融政策の失敗。

(2) スペイン内戦(1930年代)とシリア内戦の類似性。

(3) 極右、極左の台頭による民主政の弱体化。1930年代のワイマール共和国。今日のユーロ圏諸国。

(4) 専制的な政治家や過激な言動の排外主義者・ポピュリストの台頭。1930年代のファシストとナチ。今日のプーチン(ロシア)、エルドアン(トルコ)、オルバーン(ハンガリー)、そしてルペン(フランス)、トランプ(アメリカ)。
(“The very unpleasant echo from the 1930's" by Lars Christensen, Market Monetarist, November 24, 2015)
http://marketmonetarist.com/2015/11/24/the-very-unpleasant-echo-from-the-1930s/

金本位制とユーロ

 金本位制もユーロも固定相場制である。固定相場制では経常収支の不均衡を為替レートの切り下げ、すなわち金融緩和政策で調整できない。そもそもこれが1970年代前半にブレトンウッズ体制が崩壊して世界の主要国が変動相場制に移行した理由である。だが、ユーロ圏諸国は、この歴史の教訓を無視して共通通貨を導入した。その結果が、ユーロ圏周辺国の経済危機である。

 1920-30年代の金本位制では、経常収支黒字国の中央銀行が保有する金が増加する。この「金流入国」が、これに対応してマネタリー・ベースを拡大すれば(金融緩和政策を採れば)、その結果景気が上昇し、輸入が増えて金が流出すると考えられていた。これが、いわゆる「金本位制の自動調節機能」である。

 だが、確かに「金流出国」ではマネタリー・ベースを削減して金融引き締めを行わざるを得ないが、「金流入国」が必ずしも金融緩和を行うとは限らない。「金流入国」が、将来の金流出を嫌えば、金を不胎化して金融緩和を行わないという選択肢がある。1930年代にこれを行ったのがフランスであり、これで困ったのが隣国ドイツ(ワイマール共和国)である。ナチス台頭の引き金を引いたのは、国際金融の側面から見ればフランスであった。

 もっとも、ドイツ(ワイマール共和国)は1931年に金本位制から離脱しており、金融緩和政策を採ろうと思えば出来たのだが、インフレを恐れた当時のブリューニング政権が金融引き締め策をとり、1931年半ばに400万人であった失業者数は1933年の初めには800万人に達し、政権はヒトラーの手に渡った。だからフランスだけのせいだという訳ではない。ワイマールの金融政策の失敗である。

 現代の固定相場制である共通通貨ユーロには、金本位制のような「金融引き締めバイアス」はない。だが、トリシェ前ECB総裁は、最初のギリシャ危機からわずか2年しか経っていない2011年に二度の政策金利の引き上げ、つまり金融引き締めを行った。

 その帰結としてのユーロ周辺国、とりわけギリシャの苦境は周知の通りである。今回も、引き金を引いたのはフランス人?確かにフランス人ではあるが、ドイツの強い影響を受けたユーロ官僚というべきだろう。独仏合作の金融政策の失敗ということでは、1930年代と同じである。

 金融政策の失敗でダメージを受けているのは周辺国だけではない。フランスも明らかな犠牲者だ。フランスの若年失業率(25歳以下)は24%を越えている。ちなみにドイツの若年失業率は7%、ベルギーの若年失業率は23%である(2015年第3四半期)。このフランス、ベルギーの若年層の高失業率が、ISが移民の若者にアピールする契機となったのは明らかである。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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