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アベノミクスの限界? それとも世界経済の変調か

株式の大幅下落は米国の利上げと中国の政策に起因する。日本に出来ることは限定的だ

吉松崇 経済金融アナリスト

世界各国の株価の大幅な下落をどう説明するか

 年が明けて、株価の下落が止まらない。昨年末の12月30日に19,000円を付けていた日経平均株価指数(日経225)は、年初の1月4日から6営業日連続で下落して、1月12日には17,219円で引けた。13日には株価はいったん戻したものの、その後再び売られて、15日の終値は17,147円。昨年末からの下落率は9.8%である。

日経平均株価は一時300円超下落した=1月12日拡大日経平均株価は一時300円超下落した=1月12日

 このような株式市場の激しい下落を見ると、「量的金融緩和に頼った一本足打法のアベノミクスも、もう限界か?」という意見が出て来るのも無理もないのかも知れない。

 だが、この間、株式市場が大きく下落しているのは日本だけではない。例えば、米国のSP500株価指数は、昨年末(12月31日)の2,044から1月15日の1,880へと8.1%下落し、またドイツのDAX株価指数は昨年末(12月30日)の10,743から1月15日の9,545へと11.2%下落という具合に、いずれも日本と同様、大きく下落している。

 そして、何と言っても下落率が大きいのは中国である。上海総合株価指数は、昨年末(12月31日)の3,539から1月15日の2,901へと、実に19.1%も下落している。

 このような世界各国の株価の大幅な下落はどのように説明出来るのだろうか?昨年末から今年にかけて何が起きたのだろうか?

原油価格の下落が原因?

 最近の株価の下落について、「原油価格の下落で、サウジやカタールのような産油国が手元現金確保の為に、主要株式市場で売り手に回っているからだ」としばしば説明される。

 原油の価格が大きく下落しているのは確かである。一般的な指標であるWTI原油価格の昨年12月の取引平均値は1バーレル約37米ドルであったが、現在30~31米ドルであり、20%弱の下落幅である。更にさかのぼれば、昨年半ばにはWTIは1バーレル50~60米ドルで取引されていたので、過去半年の間におよそ半値となっている。「産油国が株式を売っているため」という株式市場の需給に基づく説明は、おそらく正しいのだろう。

 だが、これが、ただ単に株式市場の売り手・買い手の需給の話であれば、株価が下がったところでは新たな買い手が出てくるはずである。とくに日本やドイツのような石油輸入国にとっては、原油価格の下落は望ましいはずである。そうであればそれほど心配することはない、という話になるのであるが、本当にそうだろうか?

 「原油価格の下落が株価低迷の原因」という説明には、そもそも原油価格が何故低迷しているかの理由が語られていない。

 OPECが価格の決定権を握っていた時代とは異なり、世界の産油国の第1位がサウジ、第2位がロシア、第3位が米国、第4位が中国(2014年)という現代の世界では、原油の価格は市場の需給で決定される。誰も価格をコントロールできない。そして、世界最大の石油消費国は中国である。だから、原油価格の低迷の最大のファクターは中国の景気低迷である、と考えるのが妥当な推測であろう。

昨年末に何が起きたのか?

 もっとも、中国経済の減速が金融市場の参加者に強く意識され始めたのは昨年の夏である。昨年8月、中国は人民元の為替レートを2度にわたって切り下げ、市場参加者を驚かせた。

 一方、国際通貨基金(IMF)は以前より中国経済の減速を予測しており、2014年の7.4%から、2015年は6.8%へ、更に2016年には6.3%へ成長率が低下するという予測を、既に昨年4月の時点で発表していた。だから中国経済の減速自体は驚くべきことではないのだが、突然の為替レートの変更に中国の経済統計に対する不信感が相まって、中国経済に対する懸念が著しく高まったのが昨年の夏であった。

 中国の景気低迷は昨年半ば以来の重要な懸念材料であるが、ここにきて突然生じたものではない。これだけで、年初に始まった株式市場の変調を説明するのは無理があるだろう。昨年末から今年にかけて、一体何が起きたのだろうか?

記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長=2015年12月16日拡大記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長=2015年12月16日

 昨年末に起きた大きなイベントは、米FRB(連邦準備理事会)の政策金利の引き上げである。

 12月16日、FRBは短期金利の指標であるフェデラル・ファンド・レートの誘導目標を0~0.25%から、0.25~0.5%に引き上げた。2008年から続くゼロ金利政策の解除である。

 イェレンFRB議長は「利上げ後も緩和的な金融スタンスが続く」と述べているが、これが金融引き締めであることに変わりはない。

 私は、このFRBによる金融引き締めこそが、年初からの株価下落の引き金になったと考えている。以下、その理由を説明しよう。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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