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株価急落 正念場のアベノミクス

世界の金融界は日本経済の成長率は期待外れでアベノミクスの成否は今後次第とみている

尾形聡彦 朝日新聞機動特派員

日経平均株価の推移に神経をとがらす官僚

 「アベノミクスも正念場かもしれない」

 日経平均株価の急落を告げるボードを見ながら、ある政府高官は先週末、私にこうつぶやいた。霞が関の経済官僚たちの間では、安倍政権の支持率は、株式市場を含めた日本経済の堅調さが下支えしているという見方が一般的だ。それだけに、官僚たちは、日経平均株価の推移に神経をとがらせている。

大きく値を下げた日経平均株価のボード=2016年1月14日拡大大きく値を下げた日経平均株価のボード=2016年1月14日

 年明けから株価の下落傾向は止まらない。日経平均の昨年12月30日の大納会での終値は1万9033円。1万9千円台を保っていた。それが年明け、1月4日の大発会からずるずる下がり始め、6営業日連続して終値が前日よりも値を下げるという戦後初めての事態に。

 年明けはふつうはご祝儀相場になって株価が上がることが多いだけに、異例のことだった。私は、1997年秋の山一証券破綻の衝撃が色濃く残っていた1998年春、金融市場の取材を始めた。年明けにここまで弱気な相場を見るのは初めてだ。

 日本時間の先週月曜日(18日)朝、私は米国の首都ワシントンにいた。ワシントンは前日17日の日曜日の夜の時間帯だったが、経済チャンネル「ブルームバーグ」は、週明け18日のアジア株式市場で、株価が再び急落していることを慌ただしく伝えていた。日本時間の18日朝、日経平均は1万7000円台を割り込んだばかりか、一時は、取引時間中としては約1年ぶりに1万6600円台をつけるところまで下落した。

 「中国経済のさらなる減速懸念」、「世界全体の景気が下振れする心配」、「NY原油が1バレル=30ドル割れ」――。株価下落には、さまざまな解説がなされ、どれも実際に株式市場が下がる要因になっている。

 ただ、気になるのは、日本の株式市場の下げが、アジアでは特に目立つことだ。

 日本時間の18日朝も、米国の経済チャンネルは、アジアの市場全体が下落しているなかで、日経平均の下落率が一時1.9%に達し、アジアのなかで日本市場の急落幅が最も大きいことをグラフを示しながら何度も伝えていた。

 日本銀行による「異次元」の金融緩和を中心とする安倍政権の経済金融政策「アベノミクス」は、海外投資家の注目を集め、外国人の投資マネーを日本市場に呼び込んできた。月末の終値ベースでみると、2012年11月末には9400円台だった日経平均は、2015年5月末には2万0500円台にまで上昇。相場を押し上げた主役は外国からの投資マネーだった。

 だが、その外国人投資家たちはいま、急速に逃げ足を早めている。東京証券取引所によると、国内の株式市場で1月第1週、海外投資家が株式を売った額は買った額を4471億円上回った。

外国人投資家の間で何が起こっているのか

 国際的な金融市場関係者によると、昨年秋以降の日本の株式相場の上昇、そして年明けからの急落は、外国人投資家たちが投資先の配分を変更していることによる影響が大きいという。

 昨年8月に2万円台をつけていた日経平均は、中国経済の減速懸念から昨年9月29日に終値が16930円まで下がった。しかし、10月、11月と徐々に値を上げ、昨年12月1日には終値ベースで20012円と2万円台を回復した。

 関係者によると10月、11月にかけ、外国人投資家たちは、中国リスクがいったんは落ち着いたとみて、アジアへの株式投資を増やしていったという。ただ、リスクをできるだけ避けるために、アジア地域全体のなかでも、先進国である日本株式への投資を増やしたことが、日経平均が12月に1万9千円前後まで値を戻す原動力になったという。

 ただ、1月に入って、世界経済のリスクが再び高まっているとみて、外国人投資家は昨年秋以降に買い増していた分の日本株の売却に入ったという。昨年10月、11月の日経平均の上昇分が、はげ落ちる結果になり、アジアのなかでも日本の株価の下げが目立っているのが実態だという。

 今後の焦点は、外国人投資家たちが、投資先の配分の短期的な調整だけでなく、アベノミクスそのものが限界とみて日本からの資金を引き揚げを加速させるのか、それとも日本の成長力を見込んでマネーを再び日本に還流させるのか、という点にある。

IMFはどうみているか

国際通貨基金(IMF)専務理事のクリスティーヌ・ラガルド氏拡大国際通貨基金(IMF)専務理事のクリスティーヌ・ラガルド氏

 アベノミクスの世界からの評価で参考になるのは、国際通貨基金(IMF)による分析だ。

 IMFの現職幹部や元幹部らと話していて感じるのは、IMFがアベノミクスを評価・支持している一方で、改革に取り組む速度を早める必要性を強く感じている、という点だ。IMF幹部は「アベノミクスは、構造改革などの改革の実行ペースを早める必要がある」と語る。

 IMFはもちろん、多くの経済学者たちが評価するのは、アベノミクスが、日本における消費者心理を改善し、インフレ期待を高めた点にある。「モノの値段は下がっていくだろう、だから消費は後回しにしよう」というデフレマインドでは、順調な経済成長は望めない。「モノの値段は上がっていくだろうから、早めに消費をしよう」という適度なインフレマインドが、経済成長には必要だ。2013年春から、日銀が黒田東彦総裁のもとで行った大規模な量的緩和を通じて景気を後押ししたことで、日本の消費者マインドは改善した。

 ただ、2013年は日本の経済成長が続き、期待感が高まったが、それ以後は全体的に見ると、日本経済は足踏み状態が続いている。

 IMFが公表している各国の経済成長率で、日本を含めた主要国を比較すると、外国から見た日本経済の立ち位置がよく分かる。

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筆者

尾形聡彦

尾形聡彦(おがた・としひこ) 朝日新聞機動特派員

1969年生まれ。慶応大学卒。1993年に朝日新聞入社。米スタンフォード大客員研究員をへて、2002年から米サンノゼ特派員としてグーグルやマイクロソフトなど米IT企業を取材。08年にロンドン特派員、09年から12年までは米ワシントン特派員としてホワイトハウスや米財務省、IMF、世界銀行を取材した。日本の財務省・政策キャップ、経済部デスク、国際報道部デスクを経て、15年5月から現職。
Twitter : @ToshihikoOgata

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